【第六話】 「運命の妻です♥」とか言いながら、空から落ちてきた美女。

その日、俺はギルドの外にある露店で、パンを買っていた。


「はいよ兄ちゃん、二個で一リルな!」


「助かる~。腹は空くけど、スキルは満ちてるっていう謎の状態でさ」


朝から平和だな、と思った──その瞬間。


バサァァァッ!!!


「うぎゃっ!?」


空から、何かが落ちてきた。

いや、正確には“誰か”が俺の背中にダイブしてきたのだ。


「いたたた……あっ、やっと見つけましたわ♥」


「え?誰?え?いやマジ誰だお前!?」


振り返ると、そこには見たこともない超絶美少女がいた。

銀髪ロングに紫の瞳、細くしなやかな身体に、ありえないほど豊かな胸元。

ドレスの裾をなびかせながら、俺の上で微笑んでいる。


「リゼ・メルカヴァですわ。あなたの未来の妻ですの♥」


「えええええ!?」


「運命で結ばれていますわ。ですから、こうして天空から監視して──もとい、見守っておりましたの」


「いやいやいや、結ばれてねぇし、見守ってる距離じゃねぇし!!」


リゼはふわりと立ち上がり、まるで舞踏会のヒロインのように礼を取った。


「お久しぶり……かもしれませんわね。転生前の記憶、まだ完全じゃないご様子」


「いや、そもそも会った覚えがねぇんだが?」


「ふふふ、覚えてなくても、私は覚えておりますもの。あなたが“人の役に立ちたがりな社畜気質”だったことも♥」


……え、なんでそれ知ってんの?


「あなたが、社内でコーヒーの差し入れを断られながらも“気にせずどうぞ”って微笑んでたことも」


「やめて!やめてくれその情報戦!黒歴史えぐるのやめて!!」


まさか……この女、俺の“前世の監視者”だったりするのか?


* * *


その後、強引に同席してきたリゼと、酒場のテーブルを囲むことになった。

ガルドとレミアも座っているが、空気が完全に“変”だ。


「で、リゼさんはなんで俺を探して?」


「それはもちろん、あなたが裏の勇者──“観測点”だからですわ」


観測点?

どこかで聞いたようなワード。


「あなたはこの世界の“修正力”に抗って存在している。そんな人、ほっとけませんもの♥」


「え、俺なんか重大な存在?」


「はい♥ ですから、婚姻届も用意してまいりましたの!」


「こえぇぇぇ!!」


リゼは机の上に“どこで作ったのか不明な婚姻契約書”を広げる。


「これに署名さえいただければ、今夜から同居可能ですわ♥ お風呂もすでに共有設定で」


「そんなシステムねぇよ!あとお前、ちょいちょい話がポンコツすぎる!」


「むむっ……私、完璧超人のはず……おかしいですわ……」


「可愛い顔して自己完結しないでくれ」


──そのとき。


ギルドの扉が開き、耳をピンと立てた猫耳が、ひょこっと覗いた。


「ユウトく〜ん、朝のストーキング報告書忘れて──え、だれその巨乳?」


「……あ、やば」


ネネとリゼ。

猫耳ロリと銀髪お嬢様が、初遭遇。


ギルド内の空気が、ピキピキと音を立てて凍っていく。


「にゃ……にゃんだと……」


「まぁ。人の夫にベタベタする野良猫がいるなんて」


──火花バチバチ。


ここに、“最強最悪の三角関係”が、幕を開けた。

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