屋上で飛び降りようとしている学園のアイドルを助けなかったら懐かれた!?
夜空 叶ト
第1話 屋上で飛び降りようとしているのは学園のアイドルでした
「んぁぁ~だるい。ったくなんで一日に六時間も授業があんだよ。クソめんどくせぇ」
頭を掻きながら、俺は屋上に続く階段を上る。屋上は南京錠がかかっているけど、あの鍵実はしっかりはまっていないから簡単に開けれる。
「午後の三時間は屋上で寝て時間潰すか。まだ出席時数は大丈夫だし、テストの点数もそこまで悪くないから気にしなくても大丈夫だろ」
今の自分の現状を確認しながらどんどん屋上に向かう。昨日も屋上でサボったけど今日は快晴だから昼寝が気持ちよさそうだ。
春のそよ風に揺られてする昼寝は最高だろう。
俺は期待を膨らませながら屋上の扉に手をかけて開けた。
「ああ?」
屋上にはなんと先客がいた。この学園は県内でもそれなりに有数の高校であるから屋上でサボろうとするような生徒は俺を除いていないはずだが……
めんどくさいなぁ~俺の憩いの場所なんだけどな。
よく見てみれば屋上にいたのは、この高校で有名な女生徒だった。
晴天のような澄んだ空色の長髪を編み込みハーフアップにしており、その瞳は夜空のような紫色。これが清楚の体現と言われれば納得がいくほどの容姿だった。
顔立ちも整っており最早黄金比とさえ言えるだろう。
スラっと長い脚にそれなりに大きな胸。
学園のアイドルと言われているのも納得がいく。
そんな少女の名は
この学園の生徒であれば名前を知らない人間はいないだろう。
それほどまでにこの少女は優秀だった。
「……邪魔しないでください」
フェンスに足をかけた彼女は、俺の方を睨むように見ながら告げた。
状況を見るにおそらく飛び降り自殺だろうか。どうやら相当めんどくさい時に屋上に来てしまったらしい。
俺は自分のタイミングの悪さを呪った。それはもう激しく。
「邪魔なんかするかよ。飛び降りるなら早くしてくれ。ここは俺のサボりスポットだ。ずっと人がいたんじゃあ邪魔で仕方がない」
正直こんなに可愛い美少女がこの世からいなくなるのは世界にとっての損失だと思うが、それは俺の知ったことではない。俺には止める権利なんてないからな。
「……止めないんですか?」
「止めないって。死ぬなら勝手にどうぞ。止めもしないし勧めもしない。面倒だからな」
俺はそれだけ言ってからいつもの場所に寝転がる。やっぱり気持ちがいい。今日は本当に最高の昼寝日和だ。だからこそ、速くどこかに行ってほしいな。
飛び降りるでも屋上を後にするでもどっちでもいいからさ。
「……」
「どうした~早く帰るか飛ぶか選んでくれよ。時間は有限だぞ」
フェンスに足をかけたままの彼女に俺は声をかける。極力一人で居たいのに、こいつがいたら最高の昼寝を謳歌できない。
「まあ、お前が飛び降りたところでなんのメリットもないと思うけどな。お前が何をされたのかは知らないけど、お前が死んだところでお前に危害を与えた人物に何かが起こるとは思えない。そんなことをしても意味はないと思うが……そこらへんはお前の自由か。気にしないでくれ」
少しだけ気の毒に思わなくもない。興味はないけどこいつなら女優業や本当にアイドルにだってなれるかもしれない。だけど、こいつが死にたいって言うならやはり俺には止める権利はない。顔見知りってわけでもないしな。
「本当に止めないんですね……」
「なんだ? 止めてほしかったのか?」
「そういうわけではないのですけど、そこまで適当に扱われたのは初めてなものでして」
フェンスに足をかけていた彼女は足をかけるのをやめて俺に視線を向けてきた。
綺麗な夜空色の瞳が俺のことを見つめてくる。
なんでも持っていそうな人間がどうして自殺なんかしようと思ったのか。普通の人間なら気になるのだろうけど俺は興味が無い。俺の周りが平和に過ごせればそれだけでいい。
そして、俺の周りなんて家族くらいしかいない。友達いないしな俺。
だから、俺がこいつを丁重に扱う理由がどこにもない。むしろこいつと話しているところなんか学校の連中に見られてでもしたら、俺の平和な学園生活が脅かされかねない。
話すのはこれっきりにしたいところだ。
「当たり前だろ。俺にとっては知らない奴が飛び降りようとも知ったこっちゃない。勝手にしてくれ。さっきも言ったがここは俺の憩いの場だ。出口はフェンスの向こうかあそこの屋上の出入り口だ」
俺はフェンスか出入り口を指さしながら言う。そろそろ本当に面倒くさくなってきた。せっかくこんなにいい天気で最高の昼寝日和だってのに、なんでこんな地雷女の相手をしないといけないんだ。
面倒で仕方がない。
「あなたは不思議な人ですね」
「そうでもない。俺は普通に生活したいだけだ。だから止めはしないが、今日飛ばれると俺が疑われるから日を改めてくれると嬉しいな」
下手に見殺しにしたとか言われて疑われても面倒だからな。
人の生死なんて極力関わりたくない。というか他人とそこまで関わりたくない。
「……わかりました。日を改めます」
彼女はそういってフェンスから屋上の出入り口に向かって歩き始めた。どうやら今日飛ぶ気はなくなったらしい。安心安心。
これで俺の穏やかな学園生活は守られたな。
「名前をお聞きしてもいいですか?」
「なんで俺が、いや。俺の名前は冬夜だ。
「教えていただきありがとうございます。それでは」
彼女はそういって綺麗な澄んだ空色の長髪をなびかせながら屋上を後にした。
一体何だったんだ。変な奴だったな。
「まあ、これで屋上は静かになったし最高の昼寝場所が確保できたわけだからいいか。そろそろ昼休みも終わるしな」
俺がそういった瞬間にキーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴り響くのだった。
◇
「んぁぁ~よく寝たなぁ~」
目を開けると空は茜色になっており、見るからに夕方だった。
帰りのホームルームには出ないと出席にはならないから出ないといけない。
4時35分からホームルームが始まるからそれより前ならいいんだけどな。
スマホを取り出して画面を確認する。
「あぶね~4時30分。とっとと教室に戻るかな」
急ぎ足で教室に戻る。ホームルームに遅れたら出席にならないし先生にどやされる。
そんなめんどくさいことは勘弁願いたい。
「お前、またさぼりかよ」
「別にいいだろ? お前には何の迷惑もかけてないんだしさ」
「それもそうだけどよ。留年はすんなよな」
「任せろ。留年はめんどくさいからするつもりはない」
教室に戻った俺に声をかけてきたのは、隣の席の男子生徒の
黒髪の短髪に眼鏡をかけた細身の男だ。身長は172cmほどでありいつも読書をしている。本人にはあまり言えないが眼鏡くらいしか特徴が無い。
「ならいいけどよ。今日はどこでサボってたんだ?」
「いつも通り屋上だ。そこ以外にないだろうが」
こいつは俺のサボりスポットを知っている。一年のころにサボっているのを見つかってそれ以降はたまに屋上に来るようになってしまった。
だが、俺みたいに授業をサボることは無くこいつは毎回授業に真面目に出ている。
流石はこの学園に通う生徒といったところか。
「それもそうだな。確かに今日は快晴だったし昼寝日和なんじゃないか?」
「ああ。結構気持ちよかったぜ。お前の言う通り快晴で昼寝日和だった」
適当に陸と会話をしながら俺はホームルームを始まるのを待つ。
早く家に帰りたい。学校が終わってしまえばわざわざ残る理由もないし部屋でゴロゴロしてたい。
「お前ら~席に座れ~。めんどくせぇけどホームルーム始めんぞ~」
覇気がなく、めんどくさそうにそう言いながら入ってきたのは俺のクラス2年3組の担任である
いつも目の下に隈があり、髪はぼさぼさでヨレヨレの白衣を着ている。
この学園に勤務して長いらしい化学教師だ。面倒くさがりで有名でもある彼は今も教壇の前に立ちながらめんどくさそうにため息をついていた。
「連絡事項は特になし。明日も学校に来いよ。以上解散」
死んだ目でそれだけ言うと彼は教室を後にした。ホームルームが始まってからまだ30秒も経っていない。
俺はこういう無駄な話をしない先生が好きだったりする。お互いに面倒くさがりだから波長が合うのだ。
「んじゃ俺も帰るわ。また明日な。陸」
「はいよ。また明日な。冬夜」
陸に短く挨拶をしてから俺は教室を後にする。これで今日学校でやることは終わったためまっすぐ家に帰る。
「竜胆さん。少しいいですか?」
俺がウキウキで家に向かっているところに後ろからいきなり声をかけられた。その鈴のように綺麗な声で俺の耳によく響いた。
でも、どこかで聞き覚えがある。それもつい最近に聞いた覚えがある。
「良くないな。俺は忙しいんだ。また今度にしてくれ」
振り返ることなく後ろから聞こえてきた声にそう返して昇降口に向かって歩き続ける。
「無視しないでもらえますか?」
「無視はしてない。ちゃんと忙しいと返答した。じゃあな」
なかなかにしつこい。
この学園の生徒が俺に話しかけること自体珍しいって言うのに、一体何の用だってんだよ。
少しだけイライラしながら振り返るとつい数時間ほど前に見た綺麗な顔がそこにはあった。それもかなり不満そうな表情をして。
「私、ここで泣きますよ?」
「……そういう搦手は卑怯だぞ」
こいつは自分がどれほど人気かを理解していての脅しだろう。
人目がある校内で泣かれれば完全に俺が悪いみたいに見られてしまう。
そうなれば俺の追い求めている平和な学園生活がパァだ。
それどころか残りの約二年間親の仇を見るかのような目で全校生徒に見られる羽目になる。
「使える手は何でも使う主義なんです。どうしますか? 私はどちらでも構いませんよ?」
目の前の美少女は綺麗な笑みを向けてくるが全然目が笑っていない。これのどこがアイドルなんだ。学園の連中は見る目が無さすぎる。
「わかった。どこへでも連れて行け」
流石に不利過ぎたために俺は諦めて軍門に屈した。
「ありがとうございます。ではついてきていただきますね」
「はいはい」
非情に不満であるけど、ここで変に抵抗して俺の立場を悪くするのは得策ではないだろう。こいつの影響力と俺の影響力は違い過ぎる。この女が白と言ったら黒いものでも白くなってしまうほどには影響力がある。
「なんでそんなに嫌そうな顔でついてくるんですか? もっと笑ってくださいよ」
「半ば脅しみたいなことを言って無理やり連れてきてるやつが言う事ではないな。お前と関わると面倒ごとに巻き込まれる未来しか見えないからな」
正直学校の人気者と歩いているというだけで嫉妬にさらされるのに、この後にどんなことを言われるのか。あるいはされるのか。マジで嫌な予感しかしない。
「そこまで面倒事が嫌いなんですね」
「当たり前だ。俺はただ平和な学園生活を送りたいだけだからな。だからぜひとも面倒事を押し付けるのはやめていただきたい」
というか、マジで逃げ出してやろうか。今ならいけるんじゃないだろうか。
そう思い後ろに意識を集中した瞬間。
「逃げたらわかってますよね?」
にっこりと整った綺麗な顔が俺の顔を覗き込んでくる。
うん……逃げるのは無理みたいだな。
逃げたほうが面倒になりそうなのであきらめて後をついていくことにする。
そうしてしばらく校内を歩き回った後についたのは俺のサボりスポットである屋上だった。
「ここならだれにも話を聞かれる心配はないですね」
「そりゃな。ここには監視カメラもないしここに来る奴なんて俺みたいな不良生徒くらいだろうしな」
何度でも言うがこの学園の生徒は優秀だ。だからこんな場所に用がある奴なんかいない。だから誰も来ない。
「そうですね。あなたに来てもらったのはあなたにお願いしたいことがあるからです」
「はぁ。めんどくさく無ければ考える。めんどくさかったら断る」
内容を聞くまでは何とも言えないがどうせ面倒事だろう。なんで俺がこんな目に遭わないといけないんだ。ただ屋上で昼の授業をサボろうとしただけなのに……
それがいけなかったのだろうか?
「私と……友達になっていただけませんか?」
目の前の美少女は顔を赤らめて綺麗な夜空色の瞳を向けてくる。
見て見れば耳まで赤くなっており相当に恥ずかしがっていることがうかがえた。
だが、俺が出す答えは一つだった。
「断る。理由は面倒だから。それじゃさいなら」
俺はそれだけ言って足早に屋上を去る。後ろからついてこられないためにも全力疾走で学校を後にした。
「有名人のお友達なんかごめんだぜ。そもそも確かあいつは異性と全く関わらないことで有名じゃなかったか? そんな奴の初めての友達になったら注目の的兼嫉妬の的だ。そんな居心地の悪い学園生活を送りたくない」
だからこそ友達になるのは絶対にごめんだ。
明日から絶対に関わりませんように!
俺は手を合わせて神に祈るのだった。
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