第79話:持続する意識、初期の看護

 廃墟での日々が、アーレンの生活の全てになっていた。


 夜明け前の冷気。火を起こすための苦闘。自身の回復しつつある体に残る鈍い痛み。そして、シャアイラの動かぬ姿が常にそこにあった。


 彼女が倒れてから六日目と思われる朝、罠を再び確認した。


 一つに、また小さなリスがかかっていた。


 ウサギより小さい。だが、何もないよりはるかにましだった。


 素早く仕留め、日ごとに動きが良くなる手で針金を掛け直した。


 火の側で、小さな獲物の処理をしていた。慣れ親しんだ手仕事に没頭している間は、気を紛らわすことができた。


 シャアイラの寝床から、はっきりとした物音がした。


 以前のかすかな痙攣けいれんではない。意図的な動きだった。


 顔を上げた。全神経を研ぎ澄ます。


 彼女の目が開いていた。


 そして今度は、紫の瞳にはより明瞭で、持続的な光が宿っていた。


 まだ朦朧もうろうとした混乱は残っていた。古い歪んだガラス越しに見るような感じだったが、彼女はゆっくりと、意図的に視線を動かした。根が絡まる天井の曲線を追うように。湿った石壁を。揺らめく炎の光を。


 そして最後に、彼を。


 彼女の目に、記憶が蘇るのが見て取れた。廃墟での戦いが一瞬よぎる。その後の暗闇。そして、己が置かれた状況への弱々しい認識が芽生えた。


(廃墟……そうだ。【ヘク人間】。まだここに。火が……倒れたのを覚えてる……とても弱い。喉が渇く。焼けるようだ。手足が……石のようだ。【セズ生命力】が消えている……)


 彼女は、より意識的に体を起こそうとした。


 ひび割れた唇から低く苦しげな呻きうめきが漏れた。腕は激しく震え、毛布の重さすら持ち上げられず、ましてや自分の体など無理だった。わずかに体をずらしただけで、苛立たしげな息を吐いて倒れ込んだ。その努力で呼吸が速まった。


 アーレンが動いた。以前より躊躇いためらいは少なかったが、それでも慎重に。


 彼女の側に膝をつく。無言で、慎重に肩と頭を支え、丸めた荷物に寄りかからせた。より起き上がった、支えのある姿勢にしてやる。


 水袋に手を伸ばした。


「【キシュ】?」


 まだかすれた声で、彼は尋ねた。


 今度は、彼女はゆっくりと、しかしはっきりと頷いた。その目は水袋に釘付けになっている。アーレンは彼女の唇に水袋を運び、慎重に傾けた。弱々しく浅い嚥下だったが、彼女は自ら飲んでいた。喉の筋肉が緊張し、その必死さが伝わってくる。


 小さく数口飲ませてから、彼はそっと水袋を離した。彼は焼きたてのリスの肉に目をやった。硬く、干からびた肉だ。今の彼女の顎では、これを噛み砕くことはできないだろう。


 彼の顔に、厳しい決意の色が浮かんだ。感傷など微塵もない、ただただ残酷なまでに現実的な行動だった。彼は躊躇なく肉片をちぎると、自らの口に入れ、ゆっくりと、機械的に噛み砕き始めた。


 そして、その湿った練り肉を指に乗せ、彼女の前に差し出した。


 シャアイラは、彼の指先を凝視した。その紫の瞳が、わずかに見開かれる。彼女は、その申し出が何であるかを理解した――それは、原始的で、ほとんど動物的な世話の形だった。おぞましく、考えられない行為だ。


(【ヘク】が【ゾルカー魔族】に、まるで雛鳥に餌を与えるように、だと…?)


 彼女の視線が、肉から彼の顔へと移った。彼の表情は険しく、疲れた決意の仮面がそこにあった。そこに嘲りや慰めはなく、ただ、生き残るための事実だけが提示されていた。


 長い鼓動二つ分、彼女はただ彼を見つめていた。誇り、本能、そして根深い嫌悪感が、冷徹で否定しがたい生存の論理とせめぎ合っていた。この奇妙で、壊れかけた人間が、自分を生かそうとしている。これが、その代償だった。


 やがて、まるで全精力を使い果たすかのように、彼女はゆっくりと唇を開いた。


 アーレンは、自分が息を止めていたことに気づき、そっと息を吐いた。彼は優しく、彼女の口に食べ物を運んだ。


 顎が弱々しく、苦労して動いた。長い時間をかけて、ようやく飲み込んだ。そのわずかな動作でさえ、彼女を著しく消耗させたようだった。


 その遅い過程の間、アーレンは再び彼女を観察していた。こうして無力な彼女を見ていると、その細部が嫌でも目についた。紫の瞳は疲労で曇っていたが、時折彼と目が合うと、新たな明晰さを宿した。唇を開けると牙がまだ見え、この脆い殻の中の捕食者を思い出させた。


 何日も真の滋養じようを摂っていないことによる肉体の衰えが、意識が表情に戻った今、よりありありとわかった。頬のくぼみ。鱗のない部分の肌の、ほとんど透けるような薄さ。あらゆる小さな動きに見える深い衰弱。


 意識を保つその努力が、明らかに彼女の残り少ない力を奪っていた。


 まぶたが垂れ始めた。


 以前のような深い眠りには戻らなかったが、重く、疲れ果てたような無気力に襲われた。呼吸は軽い微睡みまどろみへと整い、荷物に寄りかかったままだった。


 アーレンはしばらく彼女を見つめた。


(目覚めた。だが生まれたての子猫のように弱い。悪い夜が一晩、食事が一回減れば、また元に戻る。まだ油断はできない。)


 火に向き直った。


 この脆い、二人分の生存という重荷が、常に圧し掛かっているのを感じていた。

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