第77話:ライラ編・灰渡、泥濘の再開

 この一日の旅で、風景は穏やかになっていた。風に削られた荒々しい丘は、昔の忘れ去られた火事の名残である灰色の木々が点在する、起伏のある土地へと変わっていた。ライラは低い丘の頂に立ち、冷たい朝の空気に息を白くしながら、それを見た。


 灰渡。とりでより小さく、静かだった。ぼろぼろの柵壁の後ろに、粗く削った木造建築が身を寄せ合っていた。その柵壁は、防御というより象徴的なものに見えた。


(土に引かれた、忘れられた線のようなものだ。いい。目も少なければ、質問も少ない。)


 中に入ると、集落はすでに活気がなく、寂れていた。たるんだ門に衛兵はいない。町の人々は、見慣れた虚ろな目をしていた。まるで多くを見過ぎて、期待するものが少なすぎるかのように。空気は湿った土と薪の煙、そしてゆっくりと腐っていくものの、かすかな酸っぱい匂いがした。


「ギルドホール」は一つのずんぐりした建物で、看板は色あせて傾いていた。外の掲示板にはぼろぼろの告知がいくつか貼られていた。「ホブ爺の穀物倉庫のネズミ――銅貨二枚」「迷い山羊、『デイジー』と呼ぶと反応――銅貨三枚」


(魔族の賞金首とは大違いだ。まあ、あれは恐怖の洞窟に繋がったが。かぶらを相手にする方が安全かもしれない。)


 宿探しは短かった。町唯一の酒場――疲れ鋤亭つかれすきてい――に付属する安宿で、彼女は銅貨二枚と引き換えにごつごつした藁の敷布と薄い毛布を手に入れた。彼女は荷物を下ろした。粗い藁が擦り切れたズボンを通して刺さった。


(四つの壁。一つの屋根。自由でも、平穏でもない。ただ、他とは違うおりでしかない。)


 * * *


 翌朝、彼女は手に入る最初の仕事を引き受けた。ホブ爺の穀物倉庫は薄暗く悪臭を放ち、空気はネズミの糞と腐った穀物の匂いで澱んでよどんでいた。彼女は無感情な手際でその中を動き回り、ナイフを手にしていた。


 しかし、特に大きなネズミを追い詰めたとき、その小さな黒い目が松明の光を反射し――


 紫の閃光。


(――あの目だ!)


 魔族の目、捕食者のように冷たい。


 彼女の突きは外れ、石に虚しくこすれた。息が詰まり、胸の奥がぎゅっと握られたようだった。二度目の試みでそれを殺したが、手は疲労以上の何かで震えていた。


 その夜、安宿の影の中で、彼女は揺らめくろうそくの光でナイフを手入れした。油布と砥石といしを扱う馴染みの儀式に心はわずかに支えられたが、それも虚しかった。


(この刃は、いくつもの戦いをくぐり抜け、命を救ってきた。それが今では、ネズミの内臓の臭いがする。錆びるよりましか。それとも、違う種類の腐敗か。)


 指が上着の下の川石に触れると、その冷たく馴染み深い重さが伝わってきた。


(十五年間、何か意味があるかのように刃を持ち続けた。何のためだった?ここで終わるためか。一日銅貨二枚の仕事をするために?)


 彼女はろうそくの炎を見つめると、汚れた壁に影が揺れた。外では、灰渡の町が疲弊しきったように、また夜の闇へと沈んでいく。そしてライラもまた、泥濘の中に自らのねぐらを見つけた、もう一匹の壊れた獣のように、それと共に沈んでいった。

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