第13話:青く濡れる大空洞と魔族の影

 狭い通路の空気から、彼らは新たに差し迫る恐怖の気配を感じ取っていた。


 ボーリンの警告が、――「山の鳴動めいどうが止まない。尋常じんじょうじゃない。極度の注意を払って進む」――一行の間に重苦しい沈黙をもたらした。


 しかしアーレンの心は、恐怖と、抑えがたい興奮とで乱れていた。目の後ろで脈打つ圧力が、下の闇から強く引っ張っている。それは今や、頭蓋骨ずがいこつが内側から圧し潰されるような、耐え難い重圧となっていた。


 吐き気が腹の中で渦巻く。


(近い。俺たちの真下だ。それが何であれ)


 ボーリンの心配そうな視線とぶつかったが、その瞳の奥に、自分と同じ厳しい光が宿っているのを読み取った。


「危険なのは分かってる。覚悟はできてる」


 アーレンは言った。声は低くかすれていた。


 彼は他の者たちを見た。ライラ、顔は青白いが決然けつぜんとしている。エララ、不安だが準備はできている。キール、目に見えて怯えているがまだ松明を握りしめている。


「降りるぞ。慎重にな。危ない箇所は一人ずつだ」


 下降は苦痛だった。緩い岩が動き、ブーツの下で滑る。絶え間ない緊張で膝が焼けつくように痛み、滑りやすい壁に身を支える肩が悲鳴を上げた。


 瓦礫がれきの斜面は終わりがないように見えた。一歩ごとに、決して踏み込んではならない神聖しんせいな静寂の奥へと、引きずり込まれていくようだった。


 ついに下のより広い、比較的平らな洞窟の床にたどり着いた時、別の震動しんどうが走った。今回はより強く、より激しい。


 見えない天井の高い所から埃が降り、地面がたわんだ。


 そして彼らは初めてそれをはっきりと見た。壁の高所に走る新たな亀裂きれつから、ねばつく青白い光の液体がじわじわと染み出し、ゆっくりと床にれていた。


 岩に触れた所で蒸気が上がり、シューと柔らかく音を立てる。


 キールは聞こえるように息を呑んだ。


「女神様……あれは一体何だ?」


 エララは完全に青ざめていた。声はかすかだ。


「欠片が熱や石を歪めるのは知ってる……でも、これは……液体? ありえない……こんな有様、記録にないわ!」


 アーレンは魅入られたように見つめた。呼吸は浅い。


(女神め……これは何だ?)


(欠片が空気をねじり、石を曲げるのは見たことがある。だが流れる液体? 青い溶岩のように流れ落ちるだと? こんなの聞いたことがない。父からも。酒場の噂でも)


(この光景……この一件を持ち帰れば、ギルドから大金を引きずり出せる。権力者どもが、よだれを垂らして食いつくはずだ……!)


 彼はボーリンの目を捉えた――その瞳にも、同じ厳しい光が宿っている。


「早くここから出ないと……! お願い、アーレン!」


 エララが荒くささやいた。かろうじて聞こえる。


 しかし誰も動く前に、上で波紋はもんが――


 松明の光が洞窟の壁を横切ると、棚、深い影、奇妙な岩肌が闇から浮かび上がった。


 キールの松明の光が高い上の影のある棚の一つを照らした時――そこの闇が、まるで水面のように歪み、波打った。奇妙に。


 何かがきらめいた。不自然に。光が、そこにあるはずのない表面を反射したかのように。


「あそこ!」


 ライラが鋭く指さしながら声を潜めた。


 影の塊がより深い暗闇から離れ、形へと流れた。細身。暗い衣装。古代の捕食者ほしょくしゃを思わせる不自然な優雅さで動く。


 心臓が凍るような一瞬――それは完全に静止し、ただ、こちらを見ていた。


 それから落ちた。


 注がれたインクのように。地に足がついていないかのような、流動的りゅうどうてきな影。絶対的な沈黙の中で着地した。ささやきもない。落ちる葉よりも滑らかに。


 それが彼らの方を向いた時、松明の光がその顔を切り裂いた。切子細工きりこざいくのような顔立ち。ほとんど繊細。


 短い黒髪が、黒曜石こくようせきの短剣のような小さな角を縁取っていた。


 そして目。


 紫の目。鋭く、そして怜悧れいりな。松明の光を飲み込み、冷たく捕食者的な輝き以外何も反射しない。


 その目は、アーレンだけを真っ直ぐに見据えていた。揺るがず、瞬きもせず。


 背筋に、氷のくいを打ち込まれたような悪寒が走った。


 彼は理解した。


(いや……違う。こんな所で……こんな時に……! なぜだ!)


 魔族まぞく――

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