第06話:傷痕の夜と旅立ちの重圧
夜の闇が、灰色の重い毛布のように砦をゆっくりと覆っていった。その先には、苦い明日が待ち構えている。東の峠への任務は確定した。触れることのできる、恐ろしい現実として。
アーレンは仲間たちと短く会い、詳細を伝えた。雰囲気は
その夜遅く、砦が不安な眠りに落ちた頃。
急かすでもなく、ただ……そこに在る。まるで、木の扉に心臓が打ち付けられるような音だった。
彼は動かず、何も言わなかった。誰なのかは、分かっていたから。
(……ライラか。また互いの亡霊を慰め合う夜か。特に、今夜のような夜は)
ドアが
彼女は何も言わず、背後でドアを静かに閉じた。そして、いつものように、二人の間の空間を渡る。躊躇わず。尋ねず。
彼女の腕が彼の首に巻きつき、そのキスは激しく、古いエールの味と、何か
それは、言葉を交わすことのない儀式だった。
彼女は沈黙のうちに服を脱ぐ。ゆっくりでも、誘惑的でもない。ただ、世界の重圧から逃れるように、一枚また一枚と。彼女の川石の首飾りだけが残り、揺れるたびに、かすかな
(あの石……。いつだって、俺とあいつの真ん中にある)
彼女は彼の膝に這い上がり、脚を彼の体に締め付ける。言葉はない。動きだけ。互いの体で、どちらにも届かない何かを追いかけるように。
温もりではない。慰めでもない。それは、ただの逃避だった。
生きること、そのものの重圧から。アーレンを蝕む
ほんの一時、目を逸らすためだけの行為。彼は動く彼女を抱き、考えることなくそのリズムに応えた。優しくはないが、残酷でもない。ただ、生きる痛みに捕らわれた二人が、危険の
二人の間の空気は濃く、息苦しく、湿ってまとわりつく。彼女の握りは、動きごとに強まっていく。快楽ではなく、
そして彼はそれに応えた。それが彼の役目だったから。毎回。
彼女が最初に震えた。鋭い息が喉に詰まり、体が弓なりになる。痛みと恐怖と絶望が、頂点で砕けたかのように。彼もすぐ後に続いた。彼女の温もりに埋もれ、息を震わせながら。
彼女の頭が、彼の肩の窪みに落ちる。かつては安全を意味したかもしれない場所。今は、この世界に安全などないと痛感させられるだけの場所。
その後、彼女は話さなかった。ただ彼の横に横たわり、汗で湿った肌、何も見ない目。
やがて、彼女は立ち上がった。沈黙のうちに服を着た。マントを羽織った。
ドアのところで、彼女は立ち止まり、振り返り、再び近づいてくる。身をかがめ、そして——いつものように——彼の額に唇を押し当てた。柔らかく。ほとんど、吐息のように。
それから彼女は去った。
彼は天井を見上げた。馴染み深い亀裂が、薄暗がりの中で暗い血管のように走っている。肉体を重ねるだけの、虚しい儀式。その虚しい儀式は、いつもアーレンの心を虚しくさせた。短く激しい繋がりは、すでに部屋の冷たさの中に消えている。
(そして、これだ。うんざりするほど優しいキス。毎回、最後に必ず)
(……最後のキス、か。馬鹿げた儀式だ。どうせ明日には死ぬかもしれねえのに)
(これも、俺たちが共に堕ちていく、定めの一幕にすぎないのか?)
彼は知らなかった。尋ねようとも思わなかった。
彼女の香りだけが残っていた。煙と汗……そして、おそらくは、涙の塩気。彼女が決して人前では見せない、脆さの
(ライラ……もう十年になるのか。俺たちは暗闇でしがみつき合うだけの亡霊だ。一体、何のために?)
(明日は峠が待っている。この聖蝕が、まだ俺の中で囁いている……)
それでも、彼は行く。他に選択肢はないのだから。
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