第14話 来訪者
獣は狩りをする時に可能な限り、音を消して獲物に近づく。
その際に行使するのは己の牙と爪。そして、“奇襲”における本能的な技術では『夜狼』の右に出る生物は居ない。
「…………」
天那は基地の外に対象の姿がない事を確認すると、中を見る前に物陰に隠れて瞳を閉じる。
意図的に視界を“暗闇”とする事で五感が一時的に増す。“触覚”“聴覚”“嗅覚”で対象の数と動きを索敵する。
一人か……基地の中でくたばってる『
対象の大体の位置は解った。天那は後ろ腰に装備したナイフを逆手に抜く。そして空いている手には、近くの石を拾って、基地の内部へ大きく投げた。
カコォン――
と、遠くで落下音を響かせると同時に、陰から疾風の様に駆けると、石の音に気を取られた対象の姿を肉薄した。
やっぱり男か。背中にはそれなりに大きな荷物を持ってやがる。とりあえず荷物をばら撒かせるか。
一目見て武器は確認出来なかったので、天那はハンニバルの頼み通りに殺さずに捕らえる方向へシフトする。
「ん? なっ!?」
男がこっちに気がつく。だが、天那の接近と奇襲は完璧であり、ナイフは狙い通りに背負具を切り裂き、男と荷物の分離に成功する。
「この建物の方ですか!?」
男はストップ! と言いたげに手を翳すが、天那は無言のまま切り返す。
狩りで驕りは死に直結する。獲物を確実に押さえ込むまで油断は欠片も宿らない。次にナイフが狙うのは男の足。機動力を奪う――
「――っ、とお!!」
「!」
通り抜け様に狙った天那の一閃を男は不格好ながらも横に飛んで避けた。隙だらけの素人回避で地面に倒れ込む。次の回避は出来ない。
しかし、天那は倒れた男には近づかなかった。ソレが“擬態”である事を即座に理解したからだ。
コイツ、何が仕込んでんな。村人では見ない顔だが……この基地を確認しに来た斥候か?
痛たた、と起き上がる男に対して天那は隙を伺いつつ、狼が獲物の隙を伺うように距離を取って歩きながらくるっとナイフを逆手から諸手に持ち替える。
「ま、待ってください! 私は――――まさか、貴女は【ファング】ですか?」
俺を知ってる。だが俺は知らない顔だ。そして、『連合軍』の紋章無しにこの基地に来た。つまり敵――殺す。
天那は冷静だった。その眼は高揚して狩りを楽しむモノではなく、確実に獲物の喉笛を食いちぎる『夜狼』の眼。
「私は敵ではありません! 商人です!」
今の天那に男の声は届かない。いや、天那自身が完全にシャットアウトしているのだ。
まだ、近づいた時の手札を持ってやがる。それなら――
天那はナイフを後ろ腰に戻すと『
「ちょっ! し、信じてください! 私は貴女の敵ではありません!」
まだ隙を見せない。
“鎌”を肩に担ぎながら男の周りを回るように歩行。僅かでも隙を見つけた瞬間、対象を即死させる攻撃力を確実に行使する。死の秒読み状態だった。
「この5メートル級の『
「…………」
「きょ、今日はこちらの基地に軍人様を送り届けたと馬車業者から聞きまして。何かお取引が出来ないかと――――」
「…………」
天那はピタリと足を止める。
「! わかって頂け――」
その瞬間、足元にあった石を男へ向かって強く蹴る。うわ!? と男は反射的に避け、避けてから――
あ、コレ――死んだ。
と、男は悟る。避ける隙を的確に狙って踏み込んでいた天那より振り下ろされる“鎌”。それは自分の胴体を両断される様を数秒後に訪れるイメージとして明確に押し付けられていた。
「待って! 天那!」
「天那さん! ストップなのです!」
その言葉と共に“鎌”が止まる。
声は基地の入り口から駆け寄ってくるサンダーとエクエルが放ったモノだった。
「アンタも変な動きはするなよ?」
と、次に聞こえたのは背後の城壁の上。ハンニバルが場の全体を見下ろしていた。
「下手に危害を加える行動を取った場合、オレに彼女を止める事は出来ないんでね」
「は、はい……」
城壁の上からハンニバルは縄を使って、するする降りてくると天那に告げる。
「天那、コイツは敵じゃない」
「俺の事を知ってた。『連合軍』の紋章も持ってねぇ。この基地が機能してない事を周囲で聞いてないワケがない。少なくとも味方じゃねぇよ」
天那は“鎌”を男にピタ止めしたまま引っ込める気はない。
「ハハハ。じゃあ妥協案と行こう。なぁアンタ、名前は?」
「! ロナンです!」
「ロナン、取りあえず服を脱いでもらっていいか?」
「え……?」
「勘違いすんなよ? オレにそんな趣味はない。言い方を変えれば武装解除だ。色々と護身用に仕込んでるみたいだからな」
全てお見通し。そんな眼をハンニバルと天那から向けられて拒否=死であると悟ったロナンは――
「ふ、服を脱がさせて頂けませんでしょうか?」
「だ、そうだ、天那。悪くない申し出だろ?」
「…………ちっ、妙な真似をしたら次は殺す」
天那は鎌を引くと肩に担ぎ、ロナンが武装解除を終えるまで目を光らせた。
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