9: 襲来
「一撃で全部溶けてくぞ」
ファルがぼそりと呟く。信じられないものを見るかのような目で画面を見続けるのは死神とファルであった。
「海ちゃん、そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?あれのリアル」
「あんなことできるやつ世界に何人もいたらたまらないでしょ」
「「それはほぼ答えじゃないか?」」
「尊だからね」
神楽坂尊=海鳥の友人の中でもトップクラスの性能となってしまえば答えなど確定する。最も、死神とファル以外が相手であったのならば3択なのだが。
「クラン作るなら今のクランは抜けるから言えよ」
「私も」
「帝王旅団を?ファルと死神ってサブマスじゃないの?」
「なんとかなるだろ」
確実に第一の街のギルドで話す話ではないとだけ言っておこう。帝王旅団はクラン戦力ランキング日本2位の最前線をひた走るクランだが、それが維持できているのは偏にファルと死神が文句を言うものを秘密裏に潰しているからである。
最大戦力が引き抜かれるとなれば帝王旅団も黙ってはいないだろう。だからこそ時鳥も海鳥も誘わなかったのだが、今は話が別である。
さて、外野がこんな話をしている間も時鳥の手が止まることはない。
「《魔導開花》」の一言で、刀には魔法が乗る。一度周囲を囲まれれば暗殺術を駆使して姿を消す。最悪毒を撒いて退散すれば、敵はすぐに倒れていく。
「GOAAAAAAAAAAA」
「うるせえ」
というかそんなことをせずとも、刀を振れば解決する。
死骸を掻き分け男は嗤う。血飛沫の舞う戦場でただ一人美しく舞い続ける。斬撃の音と断末魔が重ね合わさる。さながら地獄の王のようなその姿を、世界は認識する。
〈条件達成を確認〉
残り三匹。
〈称号: 『無慈悲なる帝王』獲得〉
残り二匹。
〈特殊条件達成を確認〉
残り一匹。
〈称号付与に管理者が介入しました〉
全滅。
〈称号: 『地獄の帝王・原初』強制獲得〉
「タイムは…78分?時間かけ過ぎたな…!?」
不穏な称号獲得と共に、時鳥が見ることになったのは…
〈世界通知〉
〈プレイヤーが魔王と邂逅しました〉
〈秘匿通知〉
〈称号: 『嬲り滅し尽くす者』獲得〉
〈称号: 『深淵と邂逅せし者・原初』獲得〉
〈称号: 『魔王の興味』獲得〉
〈称号: 『先へ駆ける者・原初』奪取〉
〈条件達成を確認〉
〈第三段階に到達〉
「お前は…?」
「首を垂れよ」
圧倒的な覇気。
久方振りの、『生命の危機』の感触。
当代魔王が、殺意を撒き散らして自身を見下ろす光景だった。
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