10: 選定の時

「随分と派手にやってくれるな」


隙だらけに見える。否、そう思わされている。それ程までの力量を肌で感じていた。俺だって恐らくプレイヤーの中では上澄だろう…第三段階の人間種など、恐らく俺以外にいないだろうし。


《コメント欄》

『どうしたんだ時鳥』

『煽られて何もしない時鳥…?』

『早く殴れよ』


「これは試験だと聞いて殺し続けていたのですが…何かお気に触ることをしましたでしょうか?もしそうだとしたら直様試験は中止するつもりでございます。」


『は?』

『これほんとに時鳥?』


それでもこれに牙を剥いてはいけない。さながら今の俺は蛇に睨まれた蛙だ。どう足掻いたとてこれには敵わん。


然し続く魔王の言葉は、想像していなかったものであった。


「合格だ。私との力量差は確りと分かっているようだな。」


にやりと笑いながら顎を持ち上げる魔王。美女に顎クイをされて無論悪い気はしないが、いかんせん状況が状況だ。俺は配信を停止しようと後ろ手でウィンドウを触る。


ん?


「不要だ」


驚愕する。配信が既に停止されていたのである。ゲームのUIに介入するAI…その異質さに身震いしつつも、感謝の意を込めて跪く。今俺に要求されているのは配下ムーブ…か。


「…して、顕現されたご理由とは?私にできることなら何でも致しましょう」


何を要求されるのか…少なくとも、これがゲームである以上意味もなく魔王が現れるような状況は生み出さないはずだ。


最悪の想定は最終ボスが魔王であることだが、現状戦闘に移行しそうな雰囲気ではない。こいつ、何を企んでる?


「そうであった。今日はお主に試験を与えにきたのだ。」


…試験?



そのときであった。


時鳥の目の前に異質な物体が落下してくる。それは深々と地面に突き刺さり、魔王と近しい気配を撒き散らす。


「…これは?」


「抜け」


は?



「時間はいくらかかってもかまわん。抜け。」



〈世界任務『魔王』に組み込まれました〉

〈女神が貴方に興味を持ちました〉

〈世界任務『選定の試練』開始〉



…は?


理屈がどうではないことだけは理解した。取り敢えず剣に触れてみようと一歩近づく。


然し、その距離は依然として縮まらない。


もう一歩踏み出しても結果は同じであった。走ってみても飛んでみても、剣との距離は縮まらない。いつの間にや椅子を用意した魔王はそれを滑稽そうに眺めている。



どうやら俺はこの謎を解かなければならないらしい。

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