第3話 スキル、おかわり!
「グオオオオオオオオッ!!」
ゴブリンロードが、玉座を震わすほどの雄叫びを上げた。
ユニークスキル《王の威圧》が、
重苦しい空気となって俺たちにのしかかる。
「ユウキ! こいつ、ヤバいぞ!」
後方から、健太の焦った声が飛んでくる。
「ああ、分かってる」
俺は冷静に相手を観察する。
威圧スキルは厄介だが、
直接的なダメージはない。
問題は、あの巨体と、手に持つ巨大な戦斧だ。
「まずは、周りのエリートからだ」
俺は、ゴブリンロードの前に立つ
屈強なエリートゴブリンたちに狙いを定める。
「健太、援護を頼む!」
「おう、任せろ!」
健太が、Dランクスキル【武具錬成】で
地面の石ころから小さな礫を生成し、
ゴブリンたちの注意を引く。
その隙に、俺は一気に距離を詰める。
捕食した【俊敏】スキルが、
俺の体を風のように押し出した。
「――もらう」
俺は、襲いかかってくるゴブリンの攻撃を
最小限の動きでいなし、
その体に静かに手を触れさせた。
「【能力捕食】」
《スキル【槍術】を獲得しました》
力を吸い取られ、崩れ落ちるゴブリン。
俺は、そいつが持っていた槍を奪い取ると、
即席で得た知識を元に、
流れるような動きで周囲のゴブリンを屠っていく。
脳内に流れ込んでくるスキルの知識は、
まるで最初から知っていたかのように
俺の体と完全にリンクする。
面白い。だが、今は感心している場合じゃない。
次々と数を減らしていく俺たちを見て、
ついにゴブリンロードが動いた。
「グガアアアアッ!」
巨体が、信じられないほどの速度で迫ってくる。
スキル《重破壊》の赤い光を纏った戦斧が、
横薙ぎに振るわれた。
ブォンッ!
凄まじい風圧。
直撃すれば、即死は免れない。
俺は、咄嗟に後方へ跳んで回避する。
戦斧が叩きつけられた地面は、
爆心地のように砕け散った。
「……さすがに、一撃が重いな」
冷や汗が、頬を伝う。
ゴブリンロードは、休む間もなく
第二、第三の攻撃を繰り出してくる。
防戦一方。
これでは、いずれジリ貧になる。
打開策は、ただ一つ。
奴のスキルを、喰うことだ。
俺が反撃の機会を窺っていると、
ゴブリンロードの動きが、ふと止まった。
そして、その両手を、ゆっくりと地面につけた。
「……来るぞ、健太!」
「おう!」
次の瞬間。
ゴブリンロードの全身から、
禍々しい紫色のオーラが立ち上った。
《ユニークスキル:重圧葬》
「――ッ!?」
マズい!
何か、とんでもないものが来る!
俺の第六感が、最大級の警報を鳴らす。
咄嗟にその場から離れようとしたが、
もう遅かった。
「グ……ル……ア……アアアアッ!!」
ゴブリンロードの咆哮と共に、
俺の体に見えない重圧がのしかかった。
「ぐっ……!? お、重い……!」
まるで、巨大な象に踏みつけられているような感覚。
体が、地面に押し付けられる。
膝が、ガクガクと震える。
立っていることすら、ままならない。
「ユ、ユウキ……!」
後方にいた健太まで、
重力の影響を受けてその場に伏している。
「ガハッ……!」
肺から、空気が無理やり押し出される。
骨が、内側から軋む音が聞こえる。
このままじゃ、圧し潰されて死ぬ。
……だが。
俺は、地面に押し付けられながらも、
意識を集中させる。
「【能力捕食】ッ!!」
俺の体を苛む、この重力のスキルを。
空間ごと、根こそぎ、
俺の力に変えてやれ!
ズズズズズズズ……ッ!
俺の体を中心に、
空間が歪むような感覚。
俺にのしかかっていた重圧が、
まるで掃除機に吸い込まれるように、
俺の体の中へと流れ込んでくる。
「グ……ガアア!? グルルル……!?」
ゴブリンロードが、
信じられないといった様子で目を見開いている。
自分のスキルが、自分の制御を離れていく。
そんな感覚に、戸惑っているのだろう。
そして、数秒後。
俺の体を縛り付けていた重力は、
完全に消え去っていた。
《ユニークスキル【重圧葬】を獲得しました》
脳内に、勝利を告げるアナウンスが響く。
「……ぷはっ!」
俺は、解放された肺に
思い切り空気を吸い込んだ。
「さてと……」
俺は、ゆっくりと立ち上がる。
「返させてもらうぜ」
俺は、さっきゴブリンロードがやったように、
両手を地面につけた。
そして、覚えたてのスキルを、
ありったけの力で発動させる。
「【重圧葬】ッ!!」
今度は、俺が重力の支配者だ。
「グギャアアアアアアアッ!?」
ゴブリンロードの巨体が、
まるでオモチャのように地面に叩きつけられる。
さっきまで俺が味わっていた苦しみを、
今度はこいつが味わう番だ。
ミシミシと、その巨体から骨の軋む音が聞こえる。
ユニークスキルを奪われ、
さらにその力で攻撃される。
これ以上ない、屈辱だろう。
「これで、終わりだ」
俺は、重力で身動きが取れない
ゴブリンロードの頭上まで跳躍すると、
捕食したスキルを、ありったけ詰め込んだ拳を
脳天に叩き込んだ。
【怪力】×【重破壊】。
俺の拳が、破壊のオーラを纏う。
「眠れ」
ドゴオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
凄まじい轟音と共に、
ゴブリンロードの頭部が、砕け散った。
巨体は、ピクリとも動かなくなる。
《ダンジョン【ゴブリンロードの要塞】を
完全に攻略しました》
《攻略報酬を獲得します》
システムアナウンスと共に、
ゴブリンロードの体が光の粒子となって消え、
その場には、いくつかのアイテムが残されていた。
拳ほどの大きさの、禍々しい紫色の魔石。
ゴブリンロードが持っていた、巨大な戦斧。
そして――。
乳白色の液体が入った、小さな小瓶。
「……まさか」
俺は、震える手でその小瓶を拾い上げた。
鑑定するまでもない。
その神々しいオーラが、答えを教えてくれていた。
『生命の霊薬』の、材料だ。
完全な霊薬ではないが、
これを元にすれば、調合が可能になる。
「……やった」
思わず、声が漏れた。
「やったぞ、健太……!」
俺は、小瓶を強く握りしめた。
これがあれば、妹を……。
「ユウキ! すごいじゃないか!
本当に、手に入れたんだな!」
健太が、自分のことのように喜んでくれる。
ああ、本当に。
諦めなくて、よかった。
俺たちが勝利を噛みしめていると、
ダンジョンの壁が光り始め、
外へと繋がる転移ゲートが出現した。
「……帰るか」
「ああ!」
俺たちは、戦利品を抱えて
光の中へと足を踏み入れた。
◆
学園に戻った俺たちは、
まず健太の怪我を治療するために
保健室へと向かった。
幸い、骨に異常はなく、
治療スキルを持つ教師のおかげで
すぐに痛みは引いたようだ。
「じゃあな、ユウキ!
今日は本当に、お疲れさん!
また明日な!」
「おう。また明日」
健太と別れ、俺は一人、
三校のボロい寮へと向かっていた。
ポケットの中には、霊薬の材料が入った小瓶。
これをどうやって完全な薬にするか。
金はどれくらいかかるのか。
考えなければならないことは、山ほどある。
だが、今はただ、
この達成感に浸っていたかった。
俺は、近道のために
エリート校の生徒たちが使う
カフェテリアを通り抜けることにした。
普段なら、絶対に近寄らない場所だ。
だが、今の俺は、
少しだけ気分が軽かった。
カフェテリアの中は、
楽しそうなエリートたちの笑い声で満ちている。
俺みたいな三校の生徒とは、
住む世界が違う。
そう思って、足早に通り過ぎようとした時だった。
聞き覚えのある、不快な声が
俺の耳に届いた。
「いやー、マジでウケるよな!
あのFランクのゴミ、
今頃モンスターの糞になってるぜ、きっと!」
西園寺 翔。
取り巻きたちに囲まれ、
高笑いしながら、武勇伝を語っている。
「さすが西園寺さん!
あんなゴミ、ああやって処分するのが一番っすよ!」
「だろ?
Fランクなんて、生きてる価値ねえんだから。
俺が掃除してやったんだ。
感謝してほしいよな、マジで」
――ピキッ。
俺の中で、何かが切れる音がした。
軽やかだった気分は、
一瞬で、氷点下の怒りへと変わる。
ああ、そうだった。
忘れるところだった。
俺がこの力を手に入れられたのは、
ある意味、こいつのおかげでもある。
だったら、礼をしないとな。
相応の、“お礼”を。
俺は、踵を返し、
ゆっくりと西園寺のテーブルへと向かった。
俺の姿に気づいた取り巻きの一人が、
「げっ!?」と声を上げる。
「な、なんだよ……?」
西園寺が、怪訝な顔で俺を見た。
そして、俺が生きてることに気づくと、
その顔を驚愕に歪ませた。
「な……んで、お前が、ここに……!?」
「よう、西園寺先輩」
俺は、静かに、だがハッキリと告げた。
その声には、自分でも驚くほどの
冷たい怒りが宿っていた。
「あんたには、聞きたいことがある。
少し、付き合ってもらおうか」
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