春に見上げたあの空は

霜月華月

序章 愛しの兄妹

「ねえ……もし私が死んでも、あんちゃん、優羽、そして緋色は仲良く暮らしてね……それが私が願う気持ちだから」

御堂美優の言葉より抜粋

「世の中は偶発的とも言える天文学的な確率で平和も不幸も平等に訪れる。人生とは得てしてそういうものである。残念ながら人間にはそれに抗う術はない」

Dr御堂修一医師の手記より抜粋


 あんちゃん、美優ここに手紙を書きます。今まで言えなかった事。それは心からの感謝です。私は世界で一番恵まれていた妹でした。

 例え両親がいなくても。例え親族がいなくても。私はあんちゃんと美優と兄妹になり、世界で一番幸せでした。私は心から恵まれていたと思います。

 どんな時も私と美優を考えてくれるあんちゃん。どんな時も私と仲良くしてくれる美優。

 幸福な時間。かけがえのない時間。共有できる時間。

 楽しかった。嬉しかった。

 そして素晴らしい親友の緋色さん。昔を懐かしむ私を見て、美優とあんちゃんはどう思いますか? 慰めてくれますか? 褒めてくれますか? それとも心配してくれますか?

 こうして昔を懐かしむ優羽がまだここにいます。あんちゃんは今の私を見て頭を撫でててくれますか? 美優は今の私を見て抱擁してくれますか?

 別に今が不幸な訳ではありませんが。

 ただ……ここに昔を懐かしむ馬鹿な妹がいると思って聞き流して下さい。

 筆が止まらないのでここで手紙は止めたいと思います。

 それでは愛しのあんちゃんとそして美優。私はこれからも一歩ずつ未来に向かって歩きます。そこで優羽は静かな動作でデスクの上にボールペンを置きながら呟く。


「ありがとう……あんちゃん。そして美優」


 優羽はそこでテーブルに置かれた手紙に目線を移す。その手紙を見て優羽は少し双眸に涙を溜めて下に俯いた。室内に木霊するのは自分の呼吸音のみ。


「……」


 暫しその静寂に身を任せた後に、優羽は手紙を暫く見てから、緩慢な手つきで手紙をデスクから拾うと、デスクの脇にあるバックから出した便箋の中に手紙をしまう。そんな一連の行動を終えると、デスクに肘を載せ優羽は額の上に人差し指を載せた。


 こうして西暦2016年12月22日は過ぎていく。

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