第12話 宇宙人たち、略奪を始めようとする。

 新宿上空———駅西口付近、保険会社ビル前。

 大きなビルを前にして円盤型の機体〈ドッゴー〉の中で二人のフォーチュン星人が会話をしている。


「流石に時間が時間ですから、あっさりと人がいなくなりましたね」


 一人は第三爆撃航空団第二大隊の隊員、クランツ伍長。平均的な男性フォーチュン星人で悪魔のような外見をしている。


「ああ、これで目的が果たせる。地球用作業ロボットを降下させろ」


 それに対するもう一人も姿かたちは似たような悪魔のような姿をしている部隊長のバルバド少尉。彼の指示にクランツは「へい」と元気よく返事をすると目の前にあるコンソールのボタンを押した。すると〈ドッゴー〉の僚機であるY字型の無人機の〈ビ・ゴール〉のY字型の股の部分からハッチが開き、人型の人間と同じサイズ、人間の男性と似通ったフォルムのロボットが次々と投下された。


「その星で作業をするのならその星にふさわしいフォルムで。やっぱり地球で作業をするのなら、地球人と同じ姿形じゃないとな」

「まぁやることは盗みですけどね!」


 ドオンと道路のコンクリートを割って着地する人型地球用作業ロボット〈ロゾ〉。真っ黒な鉄でできた装甲に一つ目のカメラアイが付いている姿はサイクロプスの様。だがサイズは平均的な日本人男性より少し高い175センチと決して大きくはない。その〈ロゾ〉は〈ビ・ゴール〉から空襲の爆弾のように次々と投下され、コンクリートを傷付けていく。

 それらが目指すのは保険会社ビルの下層にある美術館フロア。そこに展示されている数々の地球人類が創作した美術品を盗もうというのが、第三爆撃航空団第二大隊の計画だった。


「ですが、本当にいいんですかね? 部隊の備品を勝手に使って、手出しは現金で、地上に降りることすら許されなかった地上へと勝手に来ちゃって」


 クランツが不安そうな声を漏らす。


「大丈夫だ! 普通は銃殺刑もののしでかしだが、俺のバックにはメディッサ家のジェノス議員が付いている。この件だってあの人からの勅命なんだ! とりはからってくれる!」

「お‼ 今度は四大貴族のメディッサ家からの依頼ですか! 流石隊長ツテが広い!」

「軍の命令に従ってばかりだったら儲からねえんだよ。そんな真面目一辺倒じゃなくて色んなツテから仕事を受けてこまめに稼がねえとな。内職だよ内職!」

「そんなことばっかりやってるから命令以外のことをしてやり過ぎて、うちら暴走野郎部隊バーバリアンなんて言われるんですよ!」

「うるせぇ! どうせ出世ができねぇ下級民族の出なんだ。軍の指揮官程度は黙らせられるほどの金持ちに媚び売って、やらかしをもみ消してやりたい放題する方が、人生楽しく生きられるんだよ」


 そんな低俗な会話を、上空の〈ドッゴー〉のコックピット内で繰り広げている時だった。


 ———やめろ! 入るな! やめてくれ! 


 スーツ姿の地球のサラリーマンがビルから出てきて必死に中へ入ろうとする〈ロゾ〉を食い止めようとしている。電気モーターで動く〈ロゾ〉は今の地球人でも作れるほど原始的なシステムだ。故にその出力がどれだけ強力で、普通の生命体の、人間の力ではどうにもならないことなどイメージできるはずなのだが、サラリーマンたちは〈ロゾ〉に捕まり、必死に侵攻を食い止めようとする。


 ———私がいる時に盗まれたら、私はクビになる!


 純粋な怯え、職を失う恐怖から来る行動だった。


「何だあれは……鬱陶しい」

「だけど、〈ロゾ〉の動き止まってますよ?」

「あぁ⁉ あぁ……そういえば地球人は全て労働力として使うのが、我らがリリド指令の〝反攻意思衰弱作戦〟の最終目標で、一人も殺すつもりはないんだったな……だから、無人機には基本的にロックがかかってる……それを考えるとさっきの爆撃は上手くいったな! 不殺のロックを何でか知らんが潜り抜けたんだから!」

「多分綺麗に人を避けて爆撃できたんですよ」

「ま……だけど、やっぱり自動操縦オートだけじゃあ、こういう不測の事態に対処できないってわけだな。やっぱり最後に頼れるのは手動マニュアルよ」


 ガチャンと〈ドッゴー〉の下部に備え付けられていた砲台が下がり、筒の先に侵入を食い止めているサラリーマンの姿を捕らえる。


「ちょっと見せしめの加粒子砲ビームほうを地球人に向けて撃っちゃおうかな」


 重金属粒子を〈ドッゴー〉内の小型粒子加速器で加速させ、エネルギーを高めた荷電粒子を放とうと、加速器を起動して粒子のエネルギーを充電していく。

 チャージは一秒ほどで終わる。


「まぁちょっと美術館の入り口は吹き飛ばすことになるが、その方が危険が迫っていると地球人はより理解するだろう。俺は美術品をなるべく綺麗に多く手に入れたいだけで、地球人はいらない、特に馬鹿な地球人はな———バカは死んでいい」


 操縦席のトリガーを引いた。

 〈ドッゴー〉のビーム砲台から高熱のビーム粒子が線状に放出され、ビル入り口をサラリーマンごと吹き飛ばそうと、


「亜空間反応アリ!」


 クランツが裏返った声で報告する。


「何⁉」


 バシュウ!


 地上に着弾する前にビームは何かに防がれた。


「何……だと……何でここに亜空ゲートが開かれる……」


 ビルと〈ドッゴー〉の間の空間。そこに丸い空間のひずみが生まれ、ぐにゃりと光がねじ曲がって究極的に屈折しているようにしか見えないの中から巨大な黒鉄の手が出現する。

 やがて、そのひずみから全身の、巨大な黒鉄の人型が現れ、大地を割って着地する。


「どうして……こんな場所に……〈ガンフィスト〉が……」


 新宿の街中に———〈ガンフィスト〉が降臨した。

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