「鬼システム」に支配された学園で、それぞれの「シアワセ」を見つける物語

 「幸福」を数字化することで、生徒を導かんとする学園。しかし、その実態は「幸福配分システム」、通称【鬼システム】と呼ばれるAIによる学園支配だった。

 幸福のスコアが低い者から順に、赤い教室へと導かれ、そして二度と戻ってこない。
 【鬼システム】によって、かつて大切な人を喪った千鶴は、固い決意を秘めて歪な学園へと戻ってきた。竜二とトモヤ、そしてお松さんと力を合わせて、千鶴は己の目的を達成することができるのか。

 学園デスゲームのようでありながら、そのルールを決めるAIの「幸せ」の定義がころころと変わるというのが本作の斬新な点です。デスゲームはルールが首尾一貫しているか、あるいは主催者に都合の良いように書き換えられていくことが多いですが、本作はAIの「ぶれ」によって千鶴たちは翻弄されます。

 「ぶれない」はずのAIと「ぶれる(移ろう)」人間の心が対立する、という構造はAIが支配する社会に抗う物語でよくあるテーマです。しかし、本作ではむしろ「ぶれる」AIと「ぶれない」人間の心が対峙します。この点も、本作の独自性を高めています。

 生成AIの発達により、AIvs人間という構造の物語は今後増えていくと思われます。その過渡期にあって、本作は「AIの本質」を突いているという点において優れていると感じました。