第4話 互いお守りは君。

 忍が死んでもう2日たった。

 それからというもの、忍は私の後ろに四六時中憑いて周っていたのだった。


玲央奈れおな、早く行くぞー」


 学校に行く支度をしていると、血に濡れる前の学ランを着た忍がいう。

「ちょ、ちょっと待ってよ私まだ...」

 教材でパンパンになった鞄を担ぐと、家を出ようとする。だが母がそれを食い止めた。

「玲央奈ー?こんなもの落ちてたけど、これ忍くんのよね?」

 "忍''という単語が出てきて咄嗟に振り返る。 


 母が手に持っていたのは桃色の鯨の形をした鈴のキーホルダーだった。 


「そ、それは...」

 私が小学生3年生の時に行った水族館のお土産としてしのぶにあげたモノだった。 

「最近忍くんと家で遊ばないじゃない。仲でも悪いの?」

 母は今日にも手の上でキーホルダーを転がしながら聞いてくる。その間にもシャララ、と可愛い鈴の音色が聞こえてくる。

「ううん、全然仲良しだからそれ早く貸して!」

 私は母の手からキーホルダーを奪い取る。

「ふーん、そう言う関係なのー?まぁ今度聞かせてね♪」


 私は逃げるように家を出ると、宙にぷかぷかと浮きながら着いてくる忍を睨む。

「なんでこれもってたの?」

 聞くと忍は不思議そうな顔をする。

「だって、玲央奈がくれたから」

 くれたからって...そんな9年近くも持ち歩いてたの?

 そんなことを考えながら通学路を歩いていく。

「これ、僕のお守りだからさ。ほら玲央奈早くしないと遅刻するぞ〜?」

 いつのまにか手に握っていたキーホルダーは忍が握りしめていた。

 忍は空を泳ぐようにして私を待っている。


 お守り、か。私にとっては忍がお守りだよ。

 口の中でつぶやいた言葉は私の心の奥にしまっておくことにした。


「ちょっと待ってってばー!」


 私は忍を追いかけて走る。それは何かが始まるスタートラインに立ったようだった。

 



「あの子、そうとう入り込まれてるな...いち早く祓わなければ」

 後ろの電柱から顔を覗かせながら黒ずくめの男はそういうと、踵を返し、玲央奈達と逆方向に歩き始めた。


 これは何かが終わるゴールラインでもあったのだ–––––。




 

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