第3話 青い手

 私は笠田幸かさださち。どこにでもいる普通の女子高校生よ。そう、を除いてはね。

 一昨日ある事件があった。私が通っている神無月第三高等学校、それも私のクラスで人殺しが行われた。それもクラスメイトの約半数が協力した大規模な殺人だった。

 もちろん私みたいな3軍女子はそれを静かに眺めていただけ。その時の教室は気が狂うくらい寒かったのを覚えてる。


 その完璧に設定された温度は殺されたクリス・忍の死体が腐敗するのを少しでも遅らせる為のものだと気づいたのはもっと先のことだった–––。


 私は生まれた時から幽霊が見えるわけじゃない。

 5歳の時、遠い親戚のおじいちゃんの家に行った時、1人で狭い和室で遊んでたの。そしたらふすまの隙間から真っ青な手が私を呼んできた。

「おーいーでーーーーーー」

 その手にはあるべき場所に関節がなく、ふにゃふにゃに折れ曲がっていた。

 怖い、逃げなきゃ!

 本能的に脳が指示を出し、少し遅れて体が動き始める。必死に走るが、まだ小さかった私はその手に徐々に体が吸い込まれていった。

「お母さーん!!!たすけてぇぇぇ!!!」

 ふすまに指先が飲み込まれそうになり、力の限り叫ぶ。

「おーいーでーーーーーー」

 青い手も負けずと繰り返す。

 最初は一本だったその腕は二本、三本...と増えていき、最後にはふすまを360度覆い尽くした。

 もうダメだ。5歳ながらに人生の終わりを感じた私は死を覚悟する。

 すると次の瞬間

「幸!!!!大丈夫か!!!」

 家の主であるおじいちゃんが和室の障子を勢いよく開けたのだ。

 おじいちゃんは青い手を確認すると大きな数珠をどこからかとりだし、ぶつぶつと何かの呪文を唱え始めた。

「〜–#・×|%=\「〜」

 おじいちゃんが唱えていくにつれて青い手はふすまの奥に吸い込まれていき、私は畳に体から落ちる。

 ドッ ガタッ

 という音と共に青い手は完全にふすまへと閉じ込めらていった。

「おじいちゃぁああん」

 私はおじいちゃんに抱きつき、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった涙を拭く。

「幸、よく耐えたなぁ...」

 なぜかその時、おじいちゃんも涙ぐんでいたことはよく覚えている。 

 


 その出来事から私の目には幽霊が映るようになった。街中に意外とたくさんいるが、その多くが今にも消えそうな霊力の弱い"モノ"だらけだ。

 霊力が弱くなったモノは輪郭がうっすらと見える程度だが、彼。クリス・くりすしのぶはちがった。

 彼は人間と区別がつかないほどの霊力を持っており、いつも彼女(?)の古橋玲央奈ふるはしれおなの後ろにいていた。

 だが彼が幽霊だとわかるのは殺された場面を見たからではない。強い霊力を持っているからなのか、近づいてはいけない"ナニカ''と本能的に感じさせるオーラがすごいのだ。

 

 なぜ彼、クリス・忍はそんなに強い霊力を持ち、古橋玲央奈に憑いているのだろうか。

 私にはもってのほかわからない。

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