第24話 体育祭

昼休みが終わり、いよいよ午後の部が始まった。

午前中もそれなりに盛り上がっていたけれど、午後はそれ以上。

先輩たちの応援合戦やチアのダンスが繰り広げられ、会場全体の熱気が一段と高まっている。

「……あ〜冬馬、今チアの可愛い子に見惚れてたでしょ?」

「いやいや、見てただけだって。競技見たらダメなのか?」

「別に見ちゃダメとは言ってないけどさ〜、その目がちょっと……いやらしかった」

「なんだよその言い方!」

そんな他愛のないやり取りをしながら笑い合い、いよいよ俺たちの出番がやってきた。

「さぁー! 続いての競技は……

一年生による、チーム対抗リレーーッ!」

午後も後半戦に差しかかっているというのに、実況の声は枯れるどころか、むしろヒートアップしていた。

「夏希、行くぞ!気合い入れてこう!」

「うん、私とデートしたいなら、絶対勝たないとね!」

「いや、そういう意味で言ったわけじゃ──!」

パンッ!

スターターピストルの音が空に響き、リレーが始まった。

序盤はどのチームもほぼ互角。団子状態のままバトンが受け渡され、次々と選手が走り抜けていく。

しかし中盤に入ると、夏希が所属するBチームが二位・三位との差をじわじわと広げ始めた。

「いけいけ〜!そのまま突っ走れー!」

夏希は拳を握りしめて応援する。

もはや勝ち負けではなく、プライドと感情のぶつかり合い。

さっきまでの冗談交じりの勝負が、本気になっているのが伝わってきた。

すると、Aチームにバトンが渡り──

トラックに現れたのは陽菜だった。

「うわ、陽菜めっちゃ速い!」

「やっぱりあの子、運動神経バケモンだよね……」

陽菜がトップスピードで差を詰め、あっという間に順位は逆転。

Bチームは二位へと転落した。

「夏希、いけぇーっ!」

俺の声に背中を押されるようにして、夏希がバトンを受け取り走り出す。

だが、陽菜が築いたリードは想像以上に大きく、簡単には縮まらなかった。

そして──俺の番。

「冬馬、バトン!」

夏希の声と同時にバトンが手の中に収まる。

俺は全力で走り出した。

前方に、Aチームのランナーの背中が見える。

距離は……詰まっている。でも──届かない。

(あと少し……あと少しなんだけど!)

息を切らし、脚に力を込めて追いすがる。

けれど、決定的な差は埋まらなかった。

俺がバトンを次へ繋げたとき、Aチームはすでにラストスパートに入っていた。

最終走者もそのリードを守りきり、Aチームが勝利を飾った。

──リレーが終わり、俺たちは肩を落としながら観覧席に戻る。

「う〜……悔しいっ!」

夏希は唇を噛んでいたけれど、どこか晴れやかな顔をしていた。

俺自身も、全力で走り切ったせいか、妙に清々しかった。

ここまで体育祭を本気で楽しんだのは、初めてかもしれない。

「ま、今回は負けちゃったけど……約束は“総合優勝”で決めるんだよね? 冬馬は、どっちと行きたいとか、ある?」

「いやいや、俺は最初から巻き込まれてる側なんだけど……てか、そもそも、もしCチームが勝ったらどうするつもりなんだ

よ」

「え〜? じゃあそのときは、3人でどっか遊びに行こっか」

「結局そうなるんかい……」

笑い声が混ざる午後のグラウンドには、まだ熱い熱気が残っていた。

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