第20話 競技にて
夏希が競技に向かう背中を見送って俺は自分の席について競技が始まるのを待った。
「さぁ〜続いての競技はみなさんお待ちかねの。女の関ヶ原とも言われる!棒引きだぁ〜」
またしてもやけにテンションが高い実況に笑いが溢れながら、夏希を人の列から探していく。
「お、いた……」
赤いハチマキをきつく締めて、やる気満々の表情で円陣を組んでいる夏希の姿があった。
競技が始まり、生徒が一気に真ん中の棒に向かって走っていく。
夏希も走って棒を掴んだが相手も棒を掴んで離さない。
「頑張れ〜」
俺もあまり出ない声を出して応援する。
相手の人数が増え夏希が引っ張られていく。
「きゃっ?!」
夏希がバランスを崩し、ずるずると引きずられていった。
(確かに、ジャージを貸して正解だったな)
立ち上がった、夏希は土で汚れていて少し残念そうな表情を浮かべていた。
競技は数本の差で僕らのチームが負けてしまっていた。
競技が終わり、全身に土をまとった夏希が、ゆっくりと観覧席の方へ戻ってくる。
さっきまでの闘志全開な顔つきは少し和らいでいて、代わりに照れくさそうに頬をかいていた。
「おつかれ」
俺がそう声をかけると、夏希は顔をしかめて手を振った。
「はぁ〜〜、負けちゃったよ〜。私、引きずられたんだけど。見てた?」
「見てた。というか、大丈夫か足?」
「うん、貸してもらったジャージで擦り傷とかは無いはず」
そう言いながら、夏希は裾についた泥をパンパンと払う。
俺のジャージは膝から下が茶色になっていて、元の色がわからない。
「ジャージ、めちゃくちゃになったな。貸したやつだけど、……まあ、貸しといてよかった」
「でしょ。半ズボンで引きずられてたら、いろいろ酷いことになってたかも。本当に貸してくれてありがとね」
「それなら良かった。汚れてもどうせ洗えば済むし、それに──」
言いかけて、俺は少し言葉を濁した。
でも夏希がこちらを見るから、仕方なく続きを口にする。
「頑張ってるの見れたから。それだけでいいよ」
夏希は一瞬驚いた顔をした後、わずかに口元を緩めた、でも視線は逸らした。
「
……なにそれ、ずるい言い方。ちょっと嬉しかったかも」
「まあ、怪我がないなら良かったよ、もうすぐ休憩だし、休んでおこうよ」
「うん、そうする」
そう言って夏希は俺の横に座った。
夏希は水筒を開けて、ぬるくなった麦茶を一口飲むと、大きく息をついた。
「はぁ〜、全身砂まみれでテンション下がるかと思ったけど、なんかスッキリしたかも」
「そりゃ、思いっきり土の上で暴れてたしな」
「暴れてたって言い方ひどくない? 私、ちゃんと作戦も考えてたんだよ?」
「
……みんな頑張ってって他人任せみたいに言ってた人がか?」
「そこだけピックアップしないでくれる」
軽く笑いながら、夏希は膝に肘を乗せて空を見上げた。
青空の下に、運動場の喧騒が広がっていて、けれどここだけ少し落ち着いた空気が漂っている。
「
……あのさ」
唐突に、夏希が口を開いた。
「こうして座ってると、なんか、あっという間に終わっちゃうなって思うんだよね。高校のイベントって」
「まだ終わってないぞ? 午後の部も残ってるし」
「そうじゃなくてさ……」
夏希は少しだけ視線を落として、言葉を続けた。
「中学の頃はこういうイベントごとってあんまり乗り気じゃなかったんだよね。でも、仲のいい人とやるってなるとこんなに楽
しいものなんだなって思ったんだよね」
「いいことじゃないか、まだ午後もあるし楽しもう」
「うん」
俺は立ち上がり、教室に戻っていった。
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