第16話 2人のお家訪問

夏希と陽菜が両側から俺の腕を引っ張るようにして、近くのスーパーへと向かう。

「ねぇねぇ、何作ろっか?やっぱり暑いし食べやすいものがいいよね」


「待って、冬馬の冷蔵庫ってちゃんと使えるの?賞味期限切れてるのとか入ってそう」 


「……いや、いま地味に傷ついたからな?」


スーパーの自動ドアが開くと、冷気と一緒に店内のザワザワとした声も聞こえる。

夏希がすぐにカゴを手に取り、「はい」と俺に渡してきた。


「え、俺が持つの?」


「当然でしょ、ホストなんだから」


「お招きされたわけじゃないのにホスト扱い……?」


それでも俺は渋々カゴを受け取り、2人のあとをついていく。

ほとんどが体育祭の練習のため荷物が少なくてよかったと心から思う。 


「ねえ、冬馬ってどのくらい料理できるの?」

夏希がふと聞いてきた。


「まあ、準一人暮らしだからまあまあできると思うぞ」


「えっ準一人暮らしって何?」


「そこかよ」


「今は、姉さんが前使ってたマンションの一部屋に住んでるって感じかな。

まあ、姉さんはほとんどこっちに来ないけどね」


ふ〜んと夏希が答える。

しかし、その目はスマホに向いていた。

(こいつ、そこまで聞いてない)


ショックを受けながら周りを見るとやはり夕食どきだからか「お買い得品」のポップが揺れていた。


俺、夏希、陽菜の三人はカゴを片手に惣菜売り場の前で立ち止まっていた。


「で、何作るの?っていうか冬馬って、さっき言ってたけどそこそこ料理できるんだっけ?」


陽菜が俺の顔を覗き込むように聞いてくる。


「……まぁ、食える程度には。インスタントラーメンとか、卵焼きとかダークマターとかはまだ作ったことないから安心してくれ」


「それは“料理”じゃなくて“生存術”じゃない?」


陽菜は苦笑いしながら、カートの取っ手を持った。

「せっかくなら、みんなで作れるものがいいよね。なんか、工程が多いやつ」


「……お菓子とか?」


俺が冗談半分に言うと、夏希が即座に首を振る。


「ダメ。冬馬の家のキッチンで粉まみれになる未来が見えた」


「現実的すぎて否定できない……」


「じゃあ、餃子は?」と陽菜がぽつりと言った。

「餃子?」


俺と夏希が同時に顔を向ける。

「包むのって、意外と楽しいし、具材をアレンジできるでしょ? それにみんなで作れるから」


「おぉ、それ楽しそう!」と夏希の目が輝いた。

「それに、包むくらいなら冬馬でも作れるでしょ?」

「まあな、焼く以外なら大丈夫だ、と思う」 


「それに、女の子アピールするチャンスだよ?」


ひなが揶揄うように夏希を見る。 


「もう、あのことはいいでしょ〜」


「冬馬は僕たちどっちが料理得意だと思う?」

 

普通に色々優秀なことも考えれば、陽菜だろうが夏希の方は未知数だからどっちがと聞かれても

わからないとしか言いようがなかった。


話が勝手に進んでいくのを横目で見ながら、俺は小さくため息をついた。でも、どこか頬が緩む。


「……分かったよ。餃子、な」


「やったー!」


「豚ひき肉、ニラ、キャベツ、餃子の皮ね。買い忘れないようにしないと」


夏希が俺のカゴに勢いよく餃子の皮を放り込む。

陽菜がメモアプリを開きながら食材をチェックし始め、夏希はチーズ入りにするか悩みながら肉

コーナーへ駆けていく。


それを見ながら俺らは買い物を済ませて行った。

そしてレジに行く頃には関係ないものまで増えていた。


「なんか、夕食と関係ないもの多くないですか?」


カゴには食材のほかにお菓子なども入っていた。


「まあまあ、せっかく楽しいことするんだからいいじゃないか」 

「そうそう、楽しまなきゃ」


「わかったよ」


俺はギリ納得して買い物を済ませた。


その後、数分歩いて、俺のマンションに着いた。

「ここが、冬馬君の家か〜」


夏希が玄関をくぐるなり、きょろきょろと室内を見渡す。


「意外と……きれいじゃん。もっと漫画とかゲーム機とか散らかってるの想像してた」


「失礼だな。お前の想像、どんな男子像なんだよ」

「ほら、引きこもり男子って言ってたし」


「それは言い訳としての比喩であって、現実じゃないからな」


陽菜は玄関で靴を揃えながら、ほほ笑む。


「でも、いいね。落ち着いた雰囲気。家具もシンプルで、大人っぽい」 


「姉さんが選んだやつだからな。俺は選んでないけどな」


3人でリビングに入り、テーブルに食材の袋を置くと、夏希が早速キッチンを覗き込んだ。


「じゃあ、さっそく始めようか!包丁どこ?」


「おいおい、いきなりかよ。ちょっとは休めって……」


「だって楽しみなんだもん」


夏希からは疲れを知らない笑顔が見えていた。


「夏希ちゃん、キャベツを刻むのお願いしてもいい?」


陽菜が手際よくボウルを出しながら、段取りを進めていく。


「わかったよ」 


夏希は張り切ってキャベツを手に取り、まな板の前に立つ。

俺はなるべく邪魔をしないよう冷蔵庫から調味料やラップなどを出してテーブルに並べた。

(なんだかんだで、もう家庭的な雰囲気出てるな……)

キッチンからは、まな板をたたく音や夏希の「ちょっとこれ固くない!?」という悲鳴が聞こえてくる、

俺はそれを見ながら、冷水を準備し、餃子の皮の袋に書いてある手順を読んでいた。

ふと、夏希が振り返って言った。

「冬馬、具ができたら包むの一緒にやろう?どっちがきれいに包めるか勝負しようよ!」 


「いいけど、俺は見た目より中身派だからな」


「じゃあ、私は両方狙うよ」


「陽菜さんも参戦ね?」


「もちろん。負けないよ?」


キッチンに笑い声が広がる。その夏希景は、まるで本当の家族のようで──いや、家族とは少し

違う。

照れくさくて、でもどこか心が温まる不思議な空気が流れていた。

だが──

「……ただいま。冬馬、いる?」

玄関の方から、聞き慣れた声がした。

声の主は、普段は滅多に戻らないはずの、俺の姉だった。

「……え?」

俺の動きが止まった。夏希と陽菜もピタリと手を止め、顔を見合わせた。

キッチンに広がる、包みかけの餃子。テーブルに散らばった食材。リビングにいる女子ふたり。

──そして、ドアの向こうには、気配なく帰宅した“姉”。

俺は心の中で叫んだ。

(これは、やばい)

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