兄の威厳、男のプライド

マコト

これから家族になる二人

親の再婚によって、妹が出来ることになった。

俺はまだ見ぬ妹ちゃんに、兄としての威厳を見せないとな、と意気込んで居た。


「上の部屋にお兄ちゃん居るから、先に挨拶してきなさい」


再婚相手のお母さんの声が聞こえ、トコトコと軽い足音が階段を上がってくる。


「失礼しまぁす…」


可愛らしい声と共に少女が1人、ひょっこりと顔を出してきた。


妹、光(ひかり)ちゃんは俺より小さく、頭が胸辺りの高さだが、スラッとした体型で手足が長い。

黒髪ストレートで長さは肩甲骨くらいか。パッチリとした瞳は可愛らしく、子供っぽい印象を与える童顔だが、長いまつ毛はどこか大人びた雰囲気を醸し出していた。


出会った瞬間、俺たちはお互いにあっと声が出た。


ほんの1週間前だが、俺はこの子と既に会っている。


俺は小学生から空手を習っている。先週、その道場に新しく女の子が入ってきた。彼女は経験者で、近々引っ越してくる予定らしく、こちらでも空手を続けるため、少し先に道場に入会してきたのだ。

その子が光ちゃんだった。

道場での彼女は髪をポニーテールに纏めている。


師範から相手をしてあげるよう言われた俺は、早々に練習試合を申し込んだ。

女の子の後輩に、先輩らしく強くてカッコいいところを見せようと意気込んでいたからだ。


少し性急な申し出だったが、彼女はたじろぐ様子もなく、意外にもあっさりと承諾した。

可愛らしく華奢な見た目に似合わず物怖じしない態度に、年上の男として舐められたように感じた俺は少しムッとした。


しかし、試合開始すぐに彼女の技量の高さに驚かされた。


全くついていけない。


自分より年下の、しかも女の子に翻弄され、プライドが傷ついた俺はつい頭に血が上り、彼女の顔面を狙った蹴りを力任せに放つ。

しかし、蹴りの動きに合わせて、光ちゃんは大きく開かれた俺の足の間に、彼女の足を俺の尻側から滑り込ませる。光ちゃんのつま先が俺の尻の割れ目から股下をなぞり、金玉の裏側につま先を引っ掛けて、そのまま、すくうように跳ね上げた。


「はうっ⁈」


思わず、情けない声をあげて股間を抑え、うずくまる。

頭に上った血が一気に下がり、一瞬で戦意喪失させられてしまった。


うずくまった格好は、まるで彼女に土下座するような姿勢で屈辱的だったが、股間から湧き上がる苦痛で動けなかった。


「ごめんなさい、大丈夫ですか?」


そう言いながら、うずくまる俺に駆け寄った光ちゃんは目の前にしゃがんで顔を覗き込み、小声でこう続けた


「稽古なんですから、ムキになっちゃダメですよ?」


まるで、小さい子に注意するような言い方で図星を突かれて、俺はカアアッ///と赤面する。

心の中を見透かされた恥ずかしさのあまり、真っ赤になる俺の顔を、光ちゃんはじっと見つめてくる。思わず顔を隠すように下を向くと、はぁっと少し呆れたように、ため息を吐く彼女の声が聞こえた。


〜〜〜


あの時の相手だと気づいた俺たちは、お互いに驚いて固まってしまう。


とくに俺は、動揺のあまり目に見えてたじろいでしまった。

なにせあの一件以降、俺は彼女と顔を合わせるのが恥ずかしく、逃げるようにこの1週間、稽古をサボっていたのだから


年下の女の子に金的で敗北する、男としてこれ以上に屈辱で恥ずかしいことはない。

もう正直、空手も辞めて全部忘れようとしていた。


追い詰められた俺は、たまたま丁度よく現れる妹相手に、威厳ある兄としての立場を確保することで、潰された男としてのプライドを持ち直そうとしていたのだ。


なのに、妹自身がそのプライドを潰した張本人だったなんて…


道着ではない光ちゃんの、制服のスカートからスラッと伸びた足は改めて華奢な印象を与える。

彼女も俺の私服を観察しているのか、上から下へ視線が流れる。

彼女の目線が下に向いた時、ふいにあの時のことが頭をよぎった。

光ちゃんの足に蹴り上げらた感覚が玉の裏に蘇り、思わず股間を手で隠してしまった。


「あっ…」


そんな情けない俺の姿に、彼女は思わず「ふふッ」と笑う


「えっと、これからよろしくね?お兄さん?」


差し出された手に、あわてて取り繕うように握手を交わすと更にクスクスと笑われた。

彼女の目線を追って、また下を見ると足が内股になっていた。


「くすっ、そんなに怖いの?」


「い、いやぁっ?別に…っ」


咄嗟に虚勢を張り足を開くが、声が裏返った。


「ふーん?」とジト目になる光ちゃん

不意に彼女の足が、俺の股下へ滑り込む


ピタリっ…と、光ちゃんのつま先が俺の尻を下から持ち上げるように支えた。

寸止めだったが、俺は思わず腰を引いてしまう。そのせいで、彼女のつま先は尻の割れ目を、股下をなぞり、玉の裏に引っかかる。


「ほおうっ⁈」


自らあの時の再現をしてしまい、間抜けな声が出た。

トラウマで体が固まり、彼女のつま先が玉の裏に引っかかった状態で、握手をしたまま、腰を引いた情けないポーズで動けなくなった。


光ちゃんは流石に呆れたように「いや、めっちゃビビってるじゃないですか」と言うと、つま先で玉をクイクイッと持ち上げ、つられて俺の腰も前に突き出された。


ちょうど彼女の足に股間を釣り上げられるような姿勢になると、光ちゃんは握手している手を離し、スルッと股間に滑り込ませ、その細い指を玉に引っかけて軽く握り、ぐいっと下に引っぱった。


玉を下に引っ張られたことでお辞儀をするように頭を下げさせられると、下から光ちゃんが顔を近づけてくる。


「また赤くなってるよ」


玉を握られながら、光ちゃんに赤面していることを指摘され、顔を覗き込まれる。


は、恥ずかしい…っ


羞恥に耐えきれず顔を背けると、光ちゃんにたしなめられる。


「顔、逸らさないで。ちゃんとこっちを見なさい。」


そう言うと、玉を軽く握り込まれた。手加減をしてくれたのか痛くはなかったが、玉を握られるという緊張感、たったそれだけで屈服してしまい、堪らず彼女の顔を見返す。


光ちゃんのまつ毛の長い目が、品定めをするように、こちらをじっと見つめてくる。


顔がさらに赤くなるが、今度は隠せない。じっくりと、赤面する顔を見つめられる羞恥を味わった。


「私のお兄さんなんだから、もうちょっとちゃんとしてよね?」


緊張で声が出せず、コクコクと頷く


「あ、それと道場!なんで来ないの?」


「…っ」


「…答えて」


言葉に詰まっていると真剣な目で見つめられ、玉を揉まれて、答えを促される。


「は、恥ずかしかったから…っ」


「…私に金的で負けたのが、そんなに恥ずかしかったの?」


「そ、それと…カッコつけようとして、ムキになってたの、バレて…叱られたのが…っ」


「は、恥ずかしかったんです…ッ」


取り繕う余裕も無くし、自分の恥を素直に告白してしまった。


「そう…」


光ちゃんの目はまっすぐこちらを見続けている。


「でも、それはお兄さんが悪いんだから、ちゃんと反省して。」


「それに、よっぽど恥ずかしかったのかもしれないけど、逃げたままの方がカッコ悪いでしょ?」


光ちゃんはそう言うと、痛くない程度に、玉と玉を手の中で擦り合わせる。


「わかった?」


「はいィっ!わかりましたぁ…っ」


情けない声が出た。


「“ごめんなさい”は?」


「ムキになって、ごめん…なさい…っ」


彼女は仕方ないなぁ…と呟きながら手を離してくれた。


解放されると、そのまま尻もちをついた。足を閉じたかったが力が抜けて、だらしなくガニ股に開いてしまう。

そんな俺を、光ちゃんは凛とした立ち姿で、呆れたような顔で見下ろしている。


この家族において、兄の威厳は生まれる前に死んだのだ。

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兄の威厳、男のプライド マコト @macoto_re

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