第43話
トルベリアの夜は賑やかだった。
飲み屋街からは笑い声と楽器の音が響き、月明かりに魔導灯が重なって街を白く照らしている。
だが、そこから少し離れた宿屋の中は別世界のように静かで、木の香りと暖かな灯火に包まれていた。
俺たちは宿についたあと、レティから指示されたとおり彼女の部屋に集まっていた。
ちなみにニナは腕を首に巻きつけて俺に抱きついたままだ。
レティとローザの冷たい視線が突き刺さる。
チラリと俺に向けられたそれは少し横にそれてニナの後頭部へと突き刺さった。
「ニナ、あなた、ずっと顔が真っ赤のままですね。」
「少し酔いが醒めて頭が回ってきたんじゃろ。」
「あら、私はまだ酔っぱらっていらっしゃるのかと。 心配になるほど赤いままなので。」
「寝たフリをやめるのは今じゃよ。 そんなにくっついておってはミルズにはヌシの鼓動がよく聞こえておろうて。」
「それとも無理に剥がして機会をこちらから用意したほうがよいですか?」
「……」
まぁ、流石に狸寝入りなのはわかる。
さっきから心臓の音がバクバクなっているのが伝わってきているからな。
これで眠っているのなら流石に病気を疑うレベルだ。
スルッと腕の力が弱まり無言で隣の席に座り俯いて小さくなるニナ。
彼女の特徴的なエルフィニアにしては丸みを帯びた耳が熱を隠しきれずにいる。
ローザは俯いたニナの横に膝をついて彼女の顔を覗き込むようにして座る。
「大丈夫ですか? 回復魔法はいります? あら、いりませんか。」
「大丈夫かのぅ、心配じゃのぅ〜」
二人が代わる代わるニナに纏わりついて絡んでいく。
もうやめてさしあげて!
ニナが泣いちゃう!
「カカッ! 調子にのった罰じゃわ。 さて……」
満足したレティとローザが自分の席に戻り、レティが机の上にジルベロから贈られたピアスを置く。
するとそれは淡く青白く光りだした。
「ん、どうやらジャストタイミングじゃったようじゃな。」
「みたいですね……」
ローザが魔力を編んでいくと、少しずつピアスから発せられる音が大きくなっていく。
「あ〜あ〜、皆聞こえとる? 聞こえとったら返事してくれへん? ピアスに魔力通すだけで話せるから。」
そこから聞こえてくるのは、先ほどアイアンベリーで嫌ほど独演会を聞かされたジルベロのものだ。
相変わらず器用に舌先を動かすもんだな。
「お〜い、レティちゃん。 ローザちゃん? エルフリーデちゃん?」
レティがこっちを見て頷く。
あのプレゼントは通信機だったってことか、なるほど。
メイとニナにカモフラージュのプレゼントまで用意して手が込んでいるなぁ。
「レティちゃ〜ん、愛しとるで〜」
「残念じゃが、ワシの愛は一人に注がれておる。 さっさと別の相手に愛を囁いたほうがえぇじゃろうて。」
「お、繋がっとるな。 オーケーオーケー。 ローザちゃん、僕と付き合わへん?」
「私にも心に決めた相手がいますので。」
「ローザちゃんも冷たいなぁ。 いつでも乗り換えてくれてもえぇんやで。 あとは……」
「兄様、アクセル、お静かに。 どうやらこれが通信機になっているようです。」
「全員聞こえてるようやなぁ。 よかったわ、捨てられてたらどうしようかと思ってたところやわ。」
「よく出来とるのぅ、これ。 誰でも使えるようになってるのは傑作じゃわ。」
「さすがレティちゃんやね、これの凄さがわかるねんから。 ウチの国の最新技術の一つやからね。」
一つという表現を入れるあたりジルベロの共和国への誇りを感じるし、他国に負けていないという意地も感じるな。
「さて、皆揃っとることやし、本題にうつろか……」
声のトーンを一段落としジルベロは語り始める。
決行の日は3日後。
それまではご自由に。
当たり前だが問題は起こすなってな。
当日は大規模な軍事演習が行われる。
共和国の主戦力──二・五メートル級の強化外骨格「魔導兵装」を用いた実戦的な演習だ。
「魔導兵装! 父ちゃん、なんか超カッコいいのが出てきた!」
「確かに! 浪漫を感じるな! 」
「剣や魔法でも勝てんから作った新しい力か、ヒュランぽいのぅ。」
「ゆうて帝国や連邦には無粋や言われとるけどな。 剣技や魔法技術と違って力押しやゆうてな。」
「あぁ〜なるほどなぁ。 言ってることはわからんでもないけど……」
「フィジカル大事! 心技体、全てが合わさって最強に見える!」
「だよなぁ。 特化型は浪漫の塊だけど場合によっては簡単に詰むからな。」
「お、兄さんもメイちゃんもわかっとるねぇ。 僕ら、どぢちにも煮え湯を飲まされ続けとったからね。 今ではどちらにも勝ると思ってる……僕らの誇りや。」
経済の成功に続き、軍事的にも優位に立ったと確信しているのだろう。
この演習は近い未来に起こり得る戦争を見据えたものだった。
「けどまぁ、戦争なんかえぇもんちゃうわなぁ。 それにこの国の特権階級は完全に腐っとる。 それを憂う有志はおるっちゅうこっちゃ。 それが英雄ティアーゴ マルケージっちゅう男や。」
ローザが一瞬ピクリと反応した。
小さく息を呑み、握りしめた拳が膝の上で微かに震えている。
彼女とその名の関わりはまだ聞けていない。
だけど──彼女の望む行動を取ってやりたい。
俺はそっと、ローザの手に自分の手を重ね、わずかに力を込めた。
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