第42話
「ほな、みんなの飲み物がそろったところやし、はじめよか〜 かんぱーい!」
普通の飲み会が始まった。
この糸目、フォルカーニ ジルベロを幹事役として冒険者として他愛ない会話が始まる。
ギュスターブルの谷でレアなトカゲのモンスターを倒したこと、クルマ高地でボムとやりあってモンスターの自爆で風車小屋を一つ吹き飛ばしたこと。
それらを面白おかしく、ときにハラハラさせて、うまく会話を進めていく糸目。
どれ一つとして真実のない真っ赤な嘘八百だ。
こいつ、適当に言い過ぎだろ。
「せや、姉さんらに、プレゼントがあるんや。 珍しい貝のモンスターから、それはもう綺麗な真珠がとれたんや。 ピアスに加工してもろたんやけど、どやろか、もらってくれん?」
3つの淡く緑に輝くパールのピアスをレティ、ローザ、エルフリーデへと手渡す。
店内の灯りに反射して怪しくも魅力的な光を放つそれはとても高級な代物に見えた。
「僕にはないのかい?」
「えこひいきだ! やっぱりコイツは裏切り者だ! この獅子身中の虫め!」
ほろ酔いで頬が薄く紅くなって潤んだ瞳でジルベロに問いかけるニナ。
普段キリッとした表情なだけにこれだけギャップが大きいところりと落ちてしまいそうだわ。
隣の娘がうるさいけど。
「もちろん、ちゃんと用意してます! 君らはカッコえぇからなぁ、こっちのほうがえぇかと思て。」
ニナとメイにプレゼントされたのは、珊瑚と宝石が埋め込まれたブレスレット。
こちらも高そう……
ニナもメイも、これには満足気だ。
ニナはあまり装飾品を着けないタイプだし、メイももうそんな年頃なのかと認識を改めた。
二人ともこういうのは嬉しいのか、今後プレゼントをする時のよい学びになったな!
その後も話は続き、夜も更けたところでお開きとなった。
店を出ると満月の夜で夜の街並みを優しく照らしている。
これから起こることが想像出来ないほど、柔らかな風が吹き抜けていた。
「今日はこれでしまいやねぇ。 姉さんら、プレゼント、ちゃんとつけてな! じゃないと自分、泣いてまうわ。」
別れ際まで適当なことを話すジルベロ。
「気に入ってくれたらデートしてくれてもえぇんやよ。」
などと軽口を叩きながら、ひらひらと手を振り、夜更けにもかかわらずまだ人通りの多い大通りに消えていった。
「それでは僕たちも失礼します!」
アクセル君は騎士団式の敬礼をしそうになり、手を宙に泳がせたあと手を振り俺達に別れを告げた。
エルフリーデ嬢はこちらを一瞥しただけ、カインは丁寧に別れの言葉を告げる。
「メイさん、今度は私からも何かプレゼントさせて下さいね。」
一撃必殺技と思わしきウィンクを炸裂させてカインは去っていく。
ぽーっと半分ぐらい魂が抜けた娘。
魂の色がピンクになってんぞ。
「おい、返ってこい。」
メイの頭をはたくと、スパンと小気味良い音が鳴る。
大丈夫か? 何も中に入っていないようなカラッとした音がなっているけど。
人間として生きるなら必要なものぐらいは頭の中に入れておいて欲しいね。
ピンク色の魂を体に引き寄せたメイは俺を一瞥する。
そして遠くに見えるカインの背中と俺の顔を見比べた。
「はぁ〜、あれよ? 父ちゃん。 あぁいうのが父ちゃんには足りない!」
やれやれのポーズ……コイツ……
どういうのかはわかるがムカついたので、俺も一撃必殺のウィンクをブチかましてやった。
「効かぬ……効かぬのだ、父よ……ほわちゃぁー!」
「ぐぉおおお!」
返しの目潰しを食らってしまった。
なんてことしやがる!
「もうえぇから宿にいくぞ。 ほれ、アレを頼む。」
レティが指を指すのは何やら街灯に自分の理想の男性を語るニナだ。
やだ、街灯さん、かわいそう。
しっかし、相変わらず酒に弱い。
癖も悪い。
こんなになるまで飲まなきゃいいのにと毎回思うが……
仕方なくおんぶしようとニナの前で屈むとニナは首をプルプルと横に振る。
「ちーがーうー」
ニナはするりと俺の首に手を回してくる。
「どう違うのかわかった?」
酒が入ると、とことん甘い雰囲気を出すやつだ。
色々と心配になってくるよ、本当に……
「はぁ……」
仕方なくお姫様抱っこで彼女を持ち上げるとニナは満足気に笑う。
「ふふ、上出来だね、ミルズ!」
吐息のかかる距離での囁きは、胸をときめかせる前に嗅覚を刺激して心臓の鼓動を落ち着かせた。
「くっさ! 弱いんだからあんまり飲みなさんなよ。」
「えへへ〜いいじゃないか、役得役得ぅ〜」
慣れたものなのか、レティもローザもため息をつくだけでさっさと先を歩いていってしまった。
「おい、待てよ!」
先を行く彼女たちを追いかける。
通りを歩く人々は様々だ。
帰宅をいそいで早足になるものもいれば、今のニナのように酔っぱらって崩れているものもいる。
騒々しい笑い声が響き、空を見上げると月明かりは優しくそれらを包んでいる。
どこの世界もこういう風景だけは変わらない。
少しノスタルジックな気持ちになりながら、宿へと向かうのだった。
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