第5話 見習い道士はぶっ倒れる

 次の試験で絶対合格すると誓ったその日から、私の猛特訓が始まった。


 もちろん今までだって真剣にやってはいたけど、必死さが違う。

 実技鍛練の時間は倍以上に増えたし、ご飯を食べてるときやお風呂に入っている時も、術を使うのに必要な気を練る練習をしている。


 書物を読んで知識や理解を深め、暇を見つけては鍛練を繰り返し、おかげでこの数日でだいぶ鍛えられたと思うんだけど……。


「シャオメイ様、いくらなんでも無茶しすぎです。このままでは体を壊してしまいます」


 ろうそくの灯りで照らされた部屋の中。

 火照った体で横になっている私を、ハオランがウチワでパタパタとあおいでいる。


 し、失敗したー。

 今日も朝から修行に没頭してて、夜になってお風呂に入っていたら疲れがたまっていたせいか、だんだんと意識が朦朧としてのぼせてしまったの。


 何とか意識を取り戻して外に出て着替えはしたんだけど、直後にバタリ。

 今はこうしてハオランに解放してもらっているというわけ。

 自分の情けなさに、涙が出そうになるよ。


「ごめんねハオラン、もっとしっかりしなきゃいけないのに」

「いえ、シャオメイ様は十分頑張っていますよ。むしろ力を入れすぎなんです。明日はゆっくり、休んだ方がいいのでは?」

「そういうわけにはいかないわ。試験は近いんだし、もっと力をつけないと……」

「いけません。シャオメイ様になにかあったら、ミーファン様になんと詫びればいいか」


 心配してくれるハオランは、やっぱり優しい。

 そういえば小さい頃も、似たようなことがあったっけ。

 お母さんがお仕事で出掛けてるときに私が風邪をひいて。その時も、ハオランがこんな風に看病してくれたんだっけ。

 あの時はハオランがいてくれたことが凄く嬉しくて、守られてる自分に満足していた。


 だけど今は彼の優しさが、すごく苦しくなる。

 ハオランを助けないといけないのに、私ってそんなに頼りない?

 自己管理できてなくて倒れるくらいだから、無理もないか……。


「ねえハオラン……ハオランは私のことを、守らなきゃいけないって思ってる?」

「もちろんです。何があっても、シャオメイ様は俺が守ります」

「そう……」

「シャオメイ様?」


 横になっている体の向きを変えて、ハオランから顔を隠す。

 ハオランにとって私は今も、守らなきゃいけない子供なんだなって思うと、悲しくなる。

 少しは成長したって、思ってたのになあ……。


「もういいから。ハオランも、今日はもう休んで」

「本当に大丈夫ですか?」

「平気だって。というか、ハオランがいたら落ち着いて寝れないじゃない!」


 好きな男性に見つめられて、ぐーすか眠ることのできる女の子なんていない。

 というか、夜に寝所に二人きりと言うこの状況、ハオランはどう思っているんだろう……。


「これはすみません。ですが何かあったら、いつでも呼んでくださいね」


 いたっていつも通りの調子で、フッとろうそくの火を消すハオラン。

 そのまま「おやすみなさい」と言って、部屋を出ていく。

 その様子は、いたっていつも通りだ。

 ちょっとくらい、意識してくれてもいいのに……。


「って、こんな時になに考えてるんだろう? あー、もう。私のバカー!」


 布団の上で腹ばいになりながら、バタバタと足をバタつかせる。

 今は強くなることだけを考えないといけないのに、ハオランに女の子として見てもらえないのがとても悲しい。


 けど無理もない。

 美人だったお母さんと違って、娘のわたしは地味顔で貧相。

 道士としての才能も、天才と言われたお母さんと違って凡人そのものだし。

 お母さんは小さい頃から私の自慢だったけど、今は高い壁として立ち塞がってるように思える。


「どうしたらお母さんみたいに、上手くできるんだろう? 明日ユイさんに、コツがないか聞いてみようかなあ……」


 真っ暗な部屋の中、私はまどろみへと落ちていった。

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