第5話 奇怪な仕掛けと、一通の手紙

 QRコードに表示されたのは、新宿駅構内にあるコインロッカーの場所を示す地図で、もう一つのQRコードを読み取ると『解除しました』という表示と共に、僅かにカチャッという音が聞こえて来た。

 朱里はスマホに表示されているロッカー番号のドアをゆっくりと開ける。

 すると、中には萌花が手にしている白いカード(風船についていたQRコード)と同じようなカードが一枚入っているだけだった。


「うわっ、またカードだ♪ 宝探しみたいで面白いね」

「危機感持ってよ~。愉快犯みたいな人だったらどうするの?」


 すっかり冒険魂に火がついた朱里と違って、萌花は至って冷静沈着。

 眉間にしわ寄せ、嬉しそうに新しいQRコードを読み取る朱里を凝視している。


「次は東京駅だ」

「ねぇ、やめない? 何だか、怖いよ」

「そう? あたしは楽しいけど」

「……もうっ」


 いつ誰が開けてくれるかも分からないコインロッカーにお金をかけているという時点で、萌花は何かの事件に巻き込まれている気がしてならないのだ。

 麻薬や覚せい剤といった違法薬物の運び屋にされているかもしれないし、オレオレ詐欺的なグループの一端を担がされているかもしれないと思った萌花は、ルンルン気分で改札口へと向かう朱里を追いながら、すかさず新にLIMEを送る。


 ***


 東京駅のコインロッカーには更に新たなカードが入っているだけ。

 延々とこんなことを繰り返した先に、『お疲れ様でした』的なカードが入っていたら気が狂いそうだ……そう萌花は思った。

 すっかり探偵気分になっている朱里は、疑いもなく新たなカードを読み取る。

 そんな朱里を萌花は自身のスマホのカメラで撮影し、新にLIMEで画像を送る。

 気の小さい萌花には、これくらいしか抵抗出来る術が無かった。


「次は品川駅だよ」


 瞳を輝かせながら『行こっ』と萌花の手を引く朱里。

 何かあった時のために、すぐに電話がかけられるようにと、萌花はスマホを握り締めていた。


 ***


 品川駅のコインロッカーの中に入っていたのは、一通の封筒だった。

 再びカードが入っていて、次なる場所に向かわされるのかと思っていた萌花は一瞬安堵するも、封筒の中身が、朱里の期待を裏切る内容でなければいいなぁと切に願った。


 ――――――――――――――――――


 初めに、回りくどいやり方にもかかわらず、

 この手紙まで辿り着いて下さった事に深く感謝致します


 たくさんの出会いの中で絡まった糸が

 すっと解けてしまわぬように

 決して見失わないように手繰り寄せて

 手の中にあるこのご縁に感謝を


 もしあなたが、この手紙を読んで

 日常に何らかの変化を求めているなら

 私とメル友になりませんか?


 ―――――――――――――――――――


 名前も住所もなく、どこの誰かも分からない手紙。

 ただ直筆で書かれていて、丁寧に書かれている文字から悪い人が書いたようには思えない。

 先入観だろうか。

 それとも、朱里がすっかり『運命の出会い』を信じ切っているからか。

 萌花は複雑な気持ちになっていた。


 ***


 風船に付いていたQRコードを辿り、風船の主の連絡先をゲットしたまではいいのだが、新と萌花が『絶対に連絡を取っちゃダメ!』と大反対をする。

 見知らぬ人とのやり取りを危険に感じるのは当然だし、心配させていることも分かっている。

 だけど、どうしても無かったことにはできなかった。


 名前や住所、自分が女子高生だということも全て伏せて、『いい想い出ができました』というような、手紙に辿り着くまでの想いを簡素なメッセージで送った。

 すると翌日、『手紙に辿り着くまでにお手間を取らせてしまい、大変申し訳ありませんでした』という謝罪のメールが届いたのだ。

 ロッカーに入っていた手紙もそうだが、しっかりとした日本語で書かれているし、どうしても悪い印象は受けない。


 それからというもの、朱里は萌花と新には『連絡してない』と嘘を吐いて、風船の主と毎日メールのやり取りをする仲になっていた。

 手紙に書かれていたように『メル友』という範疇におさまるような。

 朝の挨拶だとか、今日は○○が美味しかっただとか。

 本当に友達とやり取りするような何てことないメールのやり取り。

 

 夏休みもあと一週間で終わりを迎える頃。

 無事に夏休みの宿題を終えた朱里は、自分へのご褒美にと駅前のソフトクリーム専門店を訪れた。

 夏季限定のマンゴーソフトを頬張りながら、自宅へと帰ろうとした、その時。

 店内の壁に貼られている、隣市で行われる花火大会のポスターが目に飛び込んで来た。

 それを目にして、一瞬で心が躍った。

『風船の主と会ってみるのはどうだろうか?』という淡い期待が。

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