第二節 誇りと絆がつないだ日々

さちの家を後にし、夕暮れの空の下、4人はリンの家へと歩いていた。


トレーニングを重ねる日々は、いつしか「当たり前」になっていた。


――その当たり前が、今ではとても大切で、特別なものに思えた。




到着したリンの家。


玄関を抜けて奥に進むと、トレーニングルームにはマットが敷かれ、壁には器具や鏡、ダンベルラックが整然と並んでいた。




「今日もがんばろう!」




ハルが手を叩き、練習が始まる。




筋トレの合間には、リンに教わった柔軟運動も欠かさない。


最近では3人とも、I字バランスや180度開脚にかなり近づいてきていた。




「ほら、見て! ここまで開くようになったよ!」




ユキが足を伸ばして見せると、リンが拍手して声を上げた。




「すごいよ、ほんとに! ちゃんと続けてるのが伝わってくる!」




さちは照れながらも、小さくうなずく。




「最初は絶対ムリって思ってたけど……やれば変われるもんなんだね」




汗を拭きつつ笑い合う中、ユキがタブレットを取り出す。




「ねえ、ちょっと面白い動画見つけたんだけど……これ、やってみない?」




動画のタイトルは《リズム体幹》。


リズムに合わせて足を開閉しながら手を交互につき、最後はゆっくりプッシュアップ――まるでダンスと筋トレが合わさったような動きだった。




「これ、かっこいい! やってみたい!」




さちが真っ先に挑戦するが、タイミングが合わず、マットにごろりと転がる。




「うー……難しい……!」




「これは練習が必要だね」




ハルが真顔でうなずいた。




「よしっ、じゃあこれも“トレノ”のトレメニューに追加!」




「リズムトレノ、始動だね!」




「新しい挑戦、楽しもう!」




笑い声がトレーニングルームに響いた。







その夜、ハルとユキの家。




「ただいまー」




「おかえり。……ねえ、今日ね、警察の方からお電話があったのよ」




母・あかねの言葉に、ふたりは思わず顔を見合わせる。




「昨日のこと……?」




「そう。あなたたちが、溺れていた子を助けたって。すごく立派だったって、お礼を言ってくださったの」




あかねは穏やかに笑ったが、少しだけ表情を曇らせた。




「でもね……もし川の流れがもっと強かったらと思うと、ぞっとするの。だから、今回のことは本当に誇らしいけれど、これからは――自分の安全も、ちゃんと考えて」




静かな声に、2人は少し照れくさそうにうなずいた。




「……うん。わかってる。でも、大丈夫だったよ。チームで動いたから」




「うん。みんながいてくれたから、できたんだよ」




2人は自室に戻り、あの日のことを思い返しながら、仲間の存在をかみしめた。







翌日、体育館では全校集会が行われていた。




「……それでは、これより表彰式に移ります」




司会の先生の声に、生徒たちの視線が壇上へと集まる。




最初に呼ばれたのは、ハルとユキ。




「県大会にて、白水ハルさんは優勝、白水ユキさんは準優勝という素晴らしい成績を収めました。おめでとうございます」




校長先生から、立派な賞状が2人に手渡される。




続いて――




「全国大会では入賞には至りませんでしたが、その健闘が認められ、敢闘賞が授与されました」




ふたたび壇上に立った2人に、驚きと尊敬の入り混じった拍手が送られた。




その後――




「次に、夏休みの自由研究にて、金賞を受賞した3名を表彰します。白川さちさん、白水ハルさん、白水ユキさん、前へどうぞ」




さちは少し緊張しながらも、胸を張って壇上へと進む。


初めての表彰状。受け取るその手には、確かな実感があった。




校長が壇を降り、式が終わるかと思われたそのとき――




「まだ、もうひとつ表彰があります。今回は、特別に警察署長より感謝状の授与です」




ざわめく体育館。




「白川さちさん、白水ハルさん、白水ユキさん、リン・ハリソンさん、前へどうぞ」




4人が前に出ると、警察署長が笑顔で迎える。




「皆さん、先日は児童を救助していただき、本当にありがとうございました」




額入りの感謝状が読み上げられ、一人ひとりに手渡される。




「これは、あなたたちの勇気とチームワークへの感謝の証です」




司会の先生が補足する。




「先日、川で溺れかけた低学年の児童を、4人が協力して救助してくれました。その冷静な判断と連携は、大人たちからも高く評価されました」




会場から大きな拍手が起こった。




4人は顔を見合わせ、照れたように笑い合う。


だがその笑顔の奥には、たしかな誇りと絆がにじんでいた。




風が涼しさを増し、校庭の木々がほんのりと色づき始める。


季節は、静かに――9月から10月へと移ろおうとしていた。


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