第6話 腹を割って話そうか
悪いのは私だ、それは分かっている。避けられるのも、目が合っても逸らされるのも、話しかけても無視されるのも。
でもこれでいいのかと何十回目の自問。その答えは未だに定まらずゆらゆらしている。謝るべきかこのままなあなあで終わらすか。
謝るのは春樹の為じゃない。自分が許されたいだけだ。許されてまた元の関係に戻りたいという打算に塗れた謝罪などされても嬉しくないだろう。
しかし本当に現状維持で良いのか。ずっと引きずるよりも早めにケリをつけて彼から離れる事は可能だ。幸いにも春樹との席も遠い。部活でも近ずかないようにすれば大丈夫。
近くにいる事も嫌かも。しかし何でこんなに避けられなきゃいけないんだ。春樹は一体私の何に期待して何に絶望したのか。
分からない、彼の事が分からない。だがそれも当然だ。記憶喪失になっているんだから。いや、なっていなくても人の心なんて分からない。
分からない事をクヨクヨ悩むなんて私らしくない。いっその事全部気になるものを質問攻めして無理矢理にでも吐かせてやろう。
思い立ったが吉日私は放課後に春樹をとっ捕まえて公園へと引っ張って行った。今日は部活休みで良かった。
「何だよ」
春樹はぶっきらぼうに言い放つ。彼は今すぐにでも帰りだそうだ。
「邪魔だよね、すぐ終わらすから十分だけ、ね?」
「……」
春樹はなんとも言えない顔で沈黙する。私は続ける。
「突然告白してごめんなさい。今ならワンチャンあるかなって思ってたの」
「それは別に良いんだ」
「良いんだ……」
告白について嫌だった訳ではないらしい。では何が原因で避けているのだろうか。
「ただ……いや、何でもない」
「……私に何を期待してたの?」
春樹の態度が大きく変わる。驚きで彼の瞳孔が開く。
「…………」
「私はこれがずっと気になってたの、私の行動を見て一喜一憂してたし」
「あ、えと……」
「言ってくれなきゃ分かんないよ。告白が原因じゃないなら、どうして、どうして私に失望したの?」
嗚呼、何と面倒くさい女だ。春樹も困っている。でも抑えきれずに嗚咽のような声が漏れてゆく。
「ごめん」
「違うよ、謝って欲しいんじゃない」
私は春樹を見上げる。
「……ごめん」
私は痺れを切らせて拳を握りしめ低めの声を出す。
「この頑固者。昔の素直な春くんはどこに行ったの」
彼は唇をギュッと噛む。私は地雷を踏んでしまった。彼の中の何かがぶつりと切れてしまった。
「──とこだよ」
「?」
春樹の小さな声を拾えず眉を顰める。彼は激高して大声を出す。
「そういうとこなんだよ!!」
怒声に背筋が伸び手が震える。春樹の怒りと悲しみが入り交じった悲鳴が聞こえた。
「昔の春くんって誰だよ。俺は、僕はそんな春くんなんて知らない。押し付けないでよ」
今度は小鹿のように体を震わせ怯えるようにこちらを伺う。
告白した時昔の春くんはとか記憶戻す手伝いをさせて欲しいとか言っていた。あれらは全て春樹にとって傷つく言葉だった事に気づかされる。
「記憶が戻ったら良いななんて誰が言ったんだよ。本当は怖いんだよ。もし記憶が戻ってきたら僕はどうなる、元の人格に戻るのか?僕は消えちゃうのかなって。君はその方が嬉しいみたいだけど」
「違っ、そんなつもりじゃ……!」
口先だけの否定だ。目の前にいる春樹の言う通りだ。幼少期の春樹の記憶を取り戻して欲しい。そしてあの日交わした約束を果たして欲しい。
最低だ。でも──
「ごめんなさい、酷く傷つけてしまって」
こんな言葉しか言えない。なんて言えば良いのか分からない。どうすれば私の想いは伝わるのか、分からない。
「君はちゃんと僕を見てくれているんだと思ってた。……初めて僕と会った時幼馴染の筈なのに初めましてって笑いかけてくれた、嬉しかったよ」
私は何も言えずただ息を飲む。
「君は過去に渡した手紙を僕の目の前で切ろうとしてくれた!約束に囚われる必要はないんだって教えてくれたと思ってた。でも、そうじゃなかった」
図星過ぎて身動きも取れない。
「約束を果たしてねって何だよ、何なんだよ!嘘なんだろ?冗談だってそう、言ってくれよ……そしたらまた──」
「違うわ。私は出会ってからずっーと記憶を取り戻して欲しかった」
春樹は今にも泣きそうになる。上っ面の綺麗な言葉じゃ伝わらないし響かない。
最初から本音で語り合おうとしたのに怖気付いちゃ駄目だろう。彼が本音を伝えてくれた。なら私も晒け出さなければ失礼ってもんだ。
「傷付けてたのは良く分かった、その上で言わせて」
私は決意を胸に息を大きく吸う。
「バッカじゃねーの!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます