第5話 期待してたのに
春樹に連れられるがままに家にお邪魔をしてしまった。色んな女子に詰め寄られている割にはガードが甘過ぎやしないだろうか。
家の中は静かで春樹の母はいなかった。引っ越す前から母子家庭だった春樹は慣れているようだから特に気にしない。
「ジュースいる?」
「あ、はい是非」
相手方のお家で緊張して何となく気まずくなる二人。もう前置とかいいや。本題に入っちゃおう。
ジュースが並々と入ったコップをテーブルに置いた春樹に私は早速聞いてみる。
「用事って?」
「ちょっと雑談でもどうかなと……」
「それって学園でも──」
と言いかけた口を閉ざした。学園では春樹と話せる機会は中々ない。この状態はしばらく続くだろう。かといって公園とかで話していて変な勘違いをされるのは迷惑だ。
だから安全に話せる家に落ち着いたのだろう。春樹の住んでいる地域に住んでいる学園の同級生は男子しかいない。
「良いよ、楽しそうだし」
私が笑うと春樹もつられて笑った。春樹は何かを期待して私を見る。
「君は──」
「ん?何か言った?」
ボソリと誰にも聞かせる気のない言葉を呟いた春樹は口を濁した。
◇◆◇◆
そんなことがあってから数週間経った今でも春樹の家に足繁く通っている。春樹との会話は楽しいしたまに春樹の母とも会える。
久しぶりに会ったときは嬉しさのあまりとっても高いお菓子を渡してくれたが申し訳ないので遠慮しておいた。
学園生活も順調で初日に遅刻しかけた生徒から真面目な優等生へと書き換えることで汚名返上もできた。春樹はというと今日も遅刻しかけて注意をされていた。
そんな所も良いよねと友達が喋っている。フツメンがしたら引かれることをイケメンがすると惹かれてしまうとはと春樹を羨む。
春樹へ女子からのアタックは収まりつつあるが隠れファンがどんどん増えていく一方である。
そして私にも変化が起きた。私は春樹をまた好きになってしまったようだ。
忘れていた恋心を思い出したかのように燃え上がる闘争心や嫉妬は留まることを知らない。羨望は恋ではない?誰だそんなこと言った奴は、羨望が恋になることだってあるだろ。
「ムムム……」
春樹に女子がまた近づいた。さり気なくボディタッチしてる。春樹全く気づいていない、警戒心を彼の母の腹の中に置いてきてしまったらしい。
授業中も姿勢だけ見れば完璧な優等生だが頭の中は春樹でいっぱいだ。そうだ、私重い女だった。
いつも間にか終わってしまった授業で疲れたのか机に突っ伏している春樹。どこでもいくらでも寝られる根性は凄い。
私は一つの疑問が頭をグルグルと回っていて答えが見つからない。何故彼をまた好きになったのか、である。
恋を忘れたから?じゃあどうして幼い頃の私は彼を好きになったの?そんなの好きになったからだよ。
と、堂々巡りで永遠に答え合わせができない。このままで良いのか。でももう既に振られてるし……
でも彼は私と楽しそうに話してるからワンチャンいけるか?無粋の極みだろ馬鹿か私。
私の脳内で二つの勢力に分かれた。告る派と告らない派だ。
脳内戦争が勃発して頭の中がっちゃかめっちゃかになり気がついた頃にはもう授業が終わった。次は部活動だ。
といっても私は球出しをしたり友達と駄弁ったりと緩くて楽しい部活だ。それにマネージャーの数も多く出番があまりない。
その要因は春樹がバレー部に入ったことで間違いないだろう。まさか彼がバレー部に入るとは思わなかったが嬉しい予想外だった。
話しかけるタイミングなんて差し入れをするときしかなくて毎日歯がゆい思いをしている。だが私には幼馴染という唯一無二の特権があるのだ。
だがこのポジションだけでは物足りない、想いをぶちまけるだけぶちまけて春樹に伝えてしまいたい。言うのはタダだしね。
思い立ったが吉日、春樹に告白しよう、うん。
そう決意して春樹の家にお土産を持ってチャイムを鳴らした。
◇◆◇◆
「へ……」
その結果がこれである。春樹は固まりこちらを凝視している。この関係が崩壊することを考慮していなかった私は浅はかだったと後悔する。
春樹には思い出の品を用意したのだがそれもスルーされて正直残念だった。
「そう、か。君も……」
春樹は落胆した。何かにガッカリしたようだ。その何かさえ分かればスッキリするのだが。
そのまま私は家から出された。彼は酷く寂しそうで悲しそうだった。私は無茶苦茶後悔した。時間を巻き戻したい程に。
次の日からも避けられるようになった。目が合ってもすぐ逸らされ、声をかけようにも近づけない。
そうして私達の距離は物理的にも心理的にも離れていった。
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