失恋したぼっちの俺、高校一の美少女双子姉妹にプロデュースされて人生がバグる
夏野小夏
第1話 プロローグは掃き溜めから
物語の主人公には、二種類いる。
生まれた時から特別な力を持つ『選ばれし者』と、ある事件をきっかけに特別な存在へと変わっていく『成り上がる者』だ。
そして俺、
そう今日この瞬間までは確かにそうだったのだ。
俺の惨めな失恋劇を二人の完璧な美少女が、運命の相手を見つけたかのように見つめていたことを俺は知らなかった。
俺の人生という名の退屈な脚本が、彼女たちによって根底から書き換えられることになるなど知る由もなかった。
『――掃き溜めの天窓』
完全招待制のそのdiskoodサーバーは、俺にとって唯一の聖域だ。
カタリスト: 【悲報】俺氏、人生初の告白にて撃沈。やはり三次元のヒロイン攻略は無理ゲーだった。同志諸君に問う。この屈辱を乗り越えるための、最適な物語を処方してくれ。
箱庭の管理人: ほう。それは痛手だったな、カタリスト君。だが若人の失意はこれからより輝くためのスパイスだよ。心を無にして観るなら『コマンドー』。怒りを力に変えるなら『ロッキー』あたりが妥当だろう。
筋肉ソムリエ: 失恋の痛みにはテストステロンが効くぞカタリスト君! 脳がヘコむ前に筋肉をデカくしろ! とにかく今すぐ腕立て100回だ! 全ての悲しみは筋肉が解決する!
終電の賢者: 乙! あんたを振るなんて見る目ない女だね。次いこ、次!
透き通るプリン: 乙。その女、見る目がないだけ。あなたは悪くない。
しゅわしゅわソーダ: カタリスト君ドンマイ! ってかその女誰!? 特定してSNSの過去ログ全部洗って社会的(自主規制)
PCの画面に表示される短いテキストに深く、安堵のため息を漏らした。
そうだ。やはりここの仲間は最高だ。透き通るプリンの静かな肯定も、ソーダの過激な激励も、惨めでささくれだった心にじんわりと染み渡る。
時間はチャットを打ち込む数時間前に遡る。
放課後の図書室側。人通りのないその場所で、俺は人生最大の勇気を振り絞っていた。
目の前に立つのはクラスでも人気が高い
更に姫の名の通り可愛らしい容姿も、すべてがキラキラと輝いて見える女の子だ。
「ひ、姫川さん。ずっと前から、好きでした」
喉から絞り出した声は自分でも情けないほどに震えていた。
姫川さんは一瞬驚いたように目を丸くした。それから少し困ったように、でも完璧な愛想笑いを浮かべて口を開く。
「ごめんなさい、一色くん。気持ちは嬉しいけど。私、好きな人がいるから。もし、勘違いさせちゃってたならごめんね」
予想通り、テンプレ通りのセリフだった。俺は深々と頭を下げ「ごめん、時間取らせて」とだけ言ってその場から逃げ出した。
とぼとぼと一人で家路につく。夕日が俺の惨めな影を長く、長く伸ばしていた。
(ダメ、だったか。予想通りの結末だ。物語の脇役にはバッドエンドがお似合いだということか)
脳裏に蘇るのは去年の図書委員会での記憶だ。
カウンター当番が一緒になった時のこと。姫川さんが読んでいたのは、俺の好きな少しマニアックな映画の原作小説だった。
勇気を振り絞って話しかけた俺に、姫川さんは花が咲くように笑って言ったのだ。
「え、ホント!? 嬉しいな! 今度、一色くんの感想も聞かせて!」
それからだった。たまに交わす他愛ない映画の話が、俺の灰色だった高校生活の唯一の彩りになった。
あの笑顔はただの愛想笑いだったのか。俺だけが舞い上がっていただけだったのか……。
悪夢は、翌日に現実となった。
登校した俺の耳に飛び込んできたのは教室のざわめきと、ヒソヒソとした囁き声。その視線がなぜか俺に集中している。
最悪の予感が的中したのはその直後だった。
クラスの中心人物、いや学園でもファンが多い、
「おい、聞いたか? 昨日、一色が姫川に告白してフラれたんだとよ! マジウケるよな、身の程を知れっての!」
爆笑する高遠とその取り巻き。クラス中から漏れ聞こえるクスクスという嘲笑。
高遠の隣では、姫川さんが「やめてよ翔くん、悪いじゃない」と言いながらも、その口元は明らかに笑みの形に歪んでいる。
なるほど。昨日まで共有していたはずの小さな秘密は、今やクラス全員の娯楽になったわけか。プライベートな情報の無料公開。あまりに陳腐な裏切りに、一周回って冷静になってきた
怒りよりも先に、呆れと諦観が俺の心を支配する。どうせ俺は物語の主人公じゃない。滑稽な当て馬役がお似合いだ。
そうやって自分の席で透明人間に戻ろうとした、その時だった。
「――少し、黙ってもらえるかしら」
凛とした、鈴の音のような声が教室に響いた。
教室の後ろの扉が開かれそこに立っていたのは、この世の美をすべて集めて形にしたかのような二人の少女だった。
学園の「氷の女王」こと、一ノ
学園の「慈愛の天使」こと、その妹の一ノ
学園の男子すべての手の届かない、文字通りの憧れ。天上に君臨する双子の登場に、教室の空気が一瞬で凍りつく。
一ノ瀬結愛さんは、冷たい眼差しでまっすぐ高遠を見据えた。
「他人の秘密を大声で言いふらすなんて、随分と品のない趣味ね」
隣の一ノ瀬咲耶さんも完璧な笑顔を浮かべている。だがその瞳は全く笑っていなかった。人形のように感情がなく、絶対零度の光を宿している。
「見ていてとっても不愉快です」
高遠ですら、その圧倒的なオーラに気圧されて何も言い返せない。
クラス中が固唾を飲んで見守る中、一ノ瀬結愛さんは、ゆっくりとまっすぐ俺の元へ歩み寄ってきた。
そして戸惑う俺の手首を、躊躇いなく掴んだ。
「行きましょう、一色くん」
「え、あ……」
返事をする間もなく、反対側の腕にも柔らかな感触が。「大丈夫ですよ、りっくん」。妹の一ノ瀬咲耶さんが、俺の腕にそっと自分の腕を絡ませてきた。
待て状況が理解できない。俺の脳内データベースには、この超展開を処理できる項目が存在しない。
情報量が多すぎて思考が追いつかない。……何かのドッキリか?
にしてはこの感触は生々しすぎる!
俺はなされるがままに、双子に連れられて教室をあとにする。
連れてこられたのは屋上だった。
吹き抜ける風が伸びた俺の前髪を揺らす。夕陽が差し込み、三人の影をくっきりとアスファルトに映し出していた。
俺に向き直った一ノ瀬結愛さんはふっと表情を和らげる。教室での氷のような雰囲気とは違う。少し憂いを帯びた、人間らしい瞳だった。
「さっきはごめんなさい。少し強引だったわね。でも、見ていられなかったの」
彼女は決意を込めた眼差しで俺を見つめて告げた。
「あなたはもっと自信を持つべきよ。本当はすごく魅力的な人なのに。もったいないわ」
「そうですよ! りっくんは、最高のダイヤモンドの原石なんです! 私たちが磨けば学園一かっこよくなれます、絶対に!」
一ノ瀬咲耶さんも力強くそう言ってくれる。
魅力的な人? ダイヤモンドの原石? まるで別次元の話を聞いているようだ。
混乱する俺をよそに、一ノ瀬結愛さんは一歩前に出る。その力強い眼差しは、有無を言わさぬ王者の風格を宿していた。
彼女は、彼女の「本当の」一人称で高らかに宣言する。
「だから――アタシたちが、あなたをプロデュースしてあげる。これは決定事項よ」
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