第3話

 森を抜け、山を越えた。



 もう随分と歩いた。太陽はてっぺんにある。



 今は川の畔で休んでいる。



「……ハァ、ハァ、ふう」

「つらそう」



 今、俺は、邪ちゃんに背中をさすさすと撫でてもらっていた。



「監獄の中でほとんど動くことが出来なかったのだ。そうなるのも仕方がないだろう」

「ボクは一応獄室の中ならウロウロ歩けたんだけどねぇ」

「……ハァ、……あそこは、ハァ、寿命を止める副次作用として……ふぅ、身体の衰えも、なくなっている。身体をある状態で、完全に時を止めている、……と表現してもいいな……。だからあそこは食事が出されない……お前ならわかるだろう、邪」

「ンン……確かにそうだったねぇ。つ・ま・り?」

「こいつは元々死ぬほど貧弱だった、ということだろう」



 失礼な。俺は一人旅もしていた。だから人並みに体力はあるのだ。けど、謎に体力がある邪ちゃんと、邪神を降ろす器足り得るためにと筋トレをしまくって、バケモンみたいな肉体になっているヴェインがおかしいのだ。



「……それで、その教団の本部とやらはあとどれくらいでつくのだ?」

「ふむ。あと、2つほど山を越えたら、といったところか」

「なん……だと……」

「……ばばあ」

「!?」



 ボソッと言ってるけど聞こえたからな。ヴェインもちょっと頷くなよ。


 そんな俺の様子を見てか、邪ちゃんがピンと人差し指を立てて、こう提案してきた。



「セワルーグちゃんには、ふたつの選択肢がありますっ! いち、このまま歩く! に、ヴェインにおんぶしてもらう! どっちがいいかな☆」

「どっちもいやだ」

「くそばばあ」

「!?!?」



 いや、俺、エルフの中だとまだ(肉体年齢は)若いし……



 監獄内での歳はノーカンだし……それ言ったら邪ちゃんもいい歳だし……



 そんな俺を見かねたヴェインが、地面に膝を突いていた俺をおぶる。



 いやいや……俺、最終的には君たち裏切るつもりだし。なんなら殺してもらうのが一番丸く収まると思っているし。



 正直、何考えているか分からないとか、そんぐらい気味悪く思ってもらうのがちょうどいいから……馴れ馴れしくされると困る。



「……愚か者どもめ」

「フン」



 鼻腔を、夏特有の爽やかで、滑らかな季節の匂いがくすぐった。



 すぐそばの自然に目を向けると、そこにはちょうが飛んでいた。



 ──これも、16世紀ぶりか。



 そう思い、少し苦笑した。



 ★






 木々の隙間からもれる光を見上げながら、ゲームのストーリーを思い出す。



 実はだが、主人公陣営は監獄襲撃までは見破れなかったが、それでも教団の大規模な作戦行動の前兆は感じ取っていたのだ。



 ゆえに、それを阻止せんと教団に逆に襲撃をしかける。それが、監獄から帰還している途中のヴェインと鉢合わせる。



 だからこそ、



「──君、教団の関係者かな」



 この展開は必然だったのだ。





 ★






 場所は森の中。



 鬱蒼とした森林は太陽の光を遮り、木々の隙間からポツリポツリと僅かに光が届くのみだった。



 大剣を構える1人の男と、は相対する。



「そのフード、教団の者だろう?」

「ああ」

「大規模な行動があることは読んでいたんだ。キミたちの蛮行、止めさせてもらうよ」



 これが勇者くんか。



 明るめの茶髪は眉にかかるくらいに伸ばされていて、瞳の色は青色。うん、ゲームの主人公の見た目と同じだ。



 顔は優男といった感じの雰囲気。しかし、その中に生意気そうな感じというか……ふてぶてしさがある。



 仲間は別行動か? 



 しかし、まずいな。



 勇者くんと鉢合わせるのは知っていたが、それはヴェインと勇者くんが、だ。



 なおかつ、ヴェインとの顔合わせ会的な負けイベ。



 まさか水を飲みに俺一人で離れたところで、勇者くんに会うとは。



 ……いや、いい。



 俺の将来の言葉の重みを増すためにも勇者くんとは面識が欲しかった。ちょうどいい。



 多少、負けイベの相手が変わるだけだ。



「さて。早速だけれども──殺す」

「生意気だな」



 勇者くんが、大剣でなぎ払い、周囲の木々も含めた一閃。



 それだけで樹齢数百を超えるであろう木々が低い音を立てながら倒れていく。



 突如として眩しくなった周囲に目を細める。



 勇者くん、アグレッシブだなー。



「まずはその素顔、暴かせてもらうよ」



 そう言って、勇者くんは歯をキラリと光らせた。



 広くなった空間で、勇者くんは理詰めに剣を振ってくる。



 さっき倒した木も利用し、足元に倒れている木から避けるルートを誘導する。



「ははっ、どうしたんだい? 逃げるばかりじゃないか!」



 フードの一片を切られた。



 なるほど。



「若いな」

「!?」



 視線の動かし方。次の動作へと移る前の予備動作。すべてが粗い。木々を倒し行動を制限するというのは悪くないが、それだけだ。



 己の手を前に突き出し、宙に氷のつららを生成し、射出する。



「ぐっ!」



 氷が腹を貫いた。



 ついでに、倒れている木々を凍らせ、粉々に砕き、地を均す。



 砂埃が少し、舞った。



「終わりか?」

「……『極光』!」



 勇者くんはそう唱えると、周囲には光の大剣が大量に浮かび上がった。



 魔法陣を使わず即時の魔法使用。ゲームでは気にならなかったが、これは女神の恩恵かな。



 魔法陣を介さず使う魔法なんて有り得ないし。



 ……おっと。



 勇者くんは、光のビームやその大剣を扱い、苛烈に攻めてくる。



 その数を凌ぐのは並大抵のことでは無い。



 とはいえ。



 握りつぶすように拳を握る。



「闇魔法……! なぜこの環境で……!!」


 

 光のビームは闇のビームで、光の大剣は闇の大剣で。

 


 すべて中和すれば問題はない。



 手をパンと合わせ、土の鎖を作り出し、勇者くんを雁字搦めに固定する。



「決したな」



 ゆっくりと歩き近づく。



 勇者くんが息を飲んだ。



 氷に貫かれ血の出る腹を押さえながら、キッとこちらを睨んできた。



「……『光よ』」

「なに?」



 ──瞬間。



 作り出した短刀で、俺の首元目掛けて斬りかかってきた。



 土鎖で固定されているというのに、よくやる……! 



 必死になって避けたが、頬に剣がかすり、風圧でフードが外れた。



「──……エ、エルフ?」



 頬の血を拭う。



「ああ。なにか妙なことでも?」

「い、いや、エルフはもういないと聞いていたから、ね」

「……そうか」



 拭って指に付いた血を、勇者くんの首に擦り付ける。



「これで無かったことにしてやる。せいぜい自分がなぜ女神に選ばれたのか考えるべきだな」

「! 女神様のことを知っているのかい!!」



 その言葉に、一瞬足を止めた。



 今、真実を話せば何かが変わるだろうか。しかし、時は熟していない。



 勇者くんはまだ何も知らず、女神を盲信している。



 真実を語っても、今の彼は受け入れられないだろう。



「嫌という程、な」



 本当に。



 というかまだ氷の槍に貫かれて痛いだろうによく喋るな。



 足で雑に回復の魔法陣を描いて、治しとく。



「……情けをかける気かい?」

「まあな。力量差を弁えたなら付いてくるなよ。そして自分の幸運に感謝しておくといい」

「待って! 君は本当に教団のものかい!? 僕の知っているヤツらはこんなことはしない!」

「しるか」



 さっきみたいに急に襲ってこられちゃたまったもんじゃない。さっさと逃げた方がいい。



 それにしても、ここでヴェインと会わないことになるのがどんな影響を与えるかはあまり分からないが……今後、俺がラスボスとして勇者くんと戦う時のことを考えると却って都合がいいかもしれない。顔合わせ的な意味でね。



 それに、確か本来はヴェインにボコられ、でも監獄からの追っ手が来てヴェインが退却するというのが流れ。



 その後は力をつけるために仲間を増やすフェーズだったか? 



 うん、なら流れは変わらない。



 さーて、ヴェインたちのところに戻るかー。

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