第1話 盗賊団 其之壱

「クー様、獲物でござる」


 手下のハーチョが、木の上から大声で叫ぶ。見張らせていた山あいの街道を森の中から見下ろすと、馬車の商隊が眼下を通過していく。岩の巨人が馬車の周囲を警戒しながら並走しているが、これは商隊を守るゴーレムの部隊だ。


「護衛がロックゴーレム(https://kakuyomu.jp/users/tekitokun/news/16818622176821687406)四機とは、小生達を見くびっているんですかねーー?」


 ドジョウ髭をいじりながら、もう一人の手下があたいの横でボヤく。黒いピッチリとした服の上に羽織った緑のベストが、森を通り過ぎる風にたなびいている。


「もう一機いるよ、ゴージョ」


 このゴージョというハーフエルフは、見た目からして変わっている。というのも、ハーフでも美形の多いエルフの血族にあって、やたら出っ歯なのだ。ドジョウ髭でへそ出しルックというファッションセンスの悪さが、見た目のおかしさを更に加速させている。


「ああ~、確かにもう一機いるみたいですけど、あれマッドゴーレム(https://kakuyomu.jp/users/tekitokun/news/16818622176662114018)じゃないの。話になんないなぁ~もぅ」


 隊の最後尾をよちよち歩く茶色く丸っこいゴーレムを一瞥したゴージョは、半笑いを浮かべている。

 ゴージョの言う通り、今時ロックゴーレムでも問題外だというのに、それ以下のマッドゴーレムなど、頭数にも入るまい。体の表面を岩で覆ったロックゴーレムですら、簡単に壊せる武器がいくらでも出回っているというのに、柔らかいマッドゴーレムのボディなど裸も同然なのだ。


「クー様、早く襲撃するでござるよ。馬車の装飾も豪勢だし、きっと金をたんまり持っているに違いないでござる」


 声と共にするすると、木の上から黄色ベストで半裸ドワーフが降りて来る。このハーチョという名のドワーフは、東方諸国の侍にかぶれており、パーマのかかった髪を無理矢理後ろ頭で髷にして、ござる口調を気取っている。とはいえ、潔さを旨とする武士の心得を持っているでもなし、意地汚い性格丸出しなのがなんとも情けない。


「じゃあ、あたいとゴージョで襲撃するから、ハーチョは後からついてきな」


「クー様、拙者も暴れたいでござる」


 肩を回しながら、ゴージョを押しのけてハーチョがねだってくる。それにしても長身細身のゴージョと並ぶと、ドワーフならではの背が低くてゴツいハーチョの体格は、ことさらに際立つものだ。


「駄目だ!」


 あたいが一喝すると、ハーチョが肩を落としてうな垂れる。


「ここはあたい達だけで十分さ。肝心なとこでお前が魔力切れになったんじゃ、かなわないんだよ」


 ハーチョを肘で突いてからかうゴージョと共に、あたいは森のすぐ裏手にある広場に入る。そこには、あらかじめ描いておいた、三つの魔法陣がたたずんでいた。


「仕事だぞ猿王(えんおう・https://kakuyomu.jp/users/tekitokun/news/16818622173039345878)」


「河鬼(かわおに・https://kakuyomu.jp/users/tekitokun/news/16818622174557866550)ちゃーん、出番ですよーーん」


 途端に魔法陣の二つが淡く光り、地面の中からあたい達のゴーレムがせり上がるように出現する。

 無論これ等は、あたい達があらかじめ描いておいた魔法陣だ。ゴーレムを引き連れて行動していたのでは目立つので、必要に応じて魔法陣で呼び出しているという訳だ。魔法陣の先は、ハーチョの実家のゴーレム工房に繋がっており、そこの格納庫から自分のゴーレムを転送している。

 あたいのゴーレムは赤紫色の鎧を纏った猿王。闘技場の賭け試合で使われるタイプのものを、あたいに合わせてカスタマイズしたものだ。女性をかたどった姿をしているのは、闘技場の客達を喜ばせるためではあるが、あたいが扱うにはこいつがどうも具合がいい。自分の身体と同じ感覚で操れるゴーレムが、一番使いやすいからだろう。自分でいうのもなんだ、あたいも女として出るとこはちゃんと出ているスタイルだし、このゴーレムの体系とよくマッチしているのだ。一味の印である、赤いベストの下に、白いハイレグ衣装の短髪でもうすぐ20のいい女。これがあたい、盗賊団の女首領のクー様だ。

 一方、ゴージョの呼び出したゴーレムは、茶色い頭と黒いボディの卵型。装甲の隙間から緑色の一つ目が覗き、丸っこい胴からは手足が生えている。ももが蛇腹状なのが、いかにもひねくれたエルフが設計したゴーレムらしい。


「乗せてくれ猿王」


 あたいの声に答え、猿王は胸の装甲を手で左右に開き、中心の青く巨大な水晶球を露わにする。この水晶こそが、あたいが乗り込むゴーレムの操縦席だ。続いて、ゴーレムは掌をあたいの前に差し出して来る。

 この一連の動きは、このゴーレムに搭載された自立思考によるものだ。ゴーレム自身の知能がいくら低いとはいえ、操縦者を自分の搭乗口に案内するくらいは問題なくできる。

 胸元に持ち上げられた巨大な掌から、ポッカリと開いた水晶球の穴に入り、そこで胡坐をかくと、水晶の壁が閉じて外の景色が球の内側に写し出される。


「なんだいゴージョ、まだ乗ってないのかい? 相変わらず、あんたのゴーレムはグズだねぇ」


 ゴージョの河鬼は、ようやくクチバシ型のハッチを開けたところだった。


「しょうがないですよ。軍事用のゴーレムっていうのは、自立思考用の宝玉が装甲の内側にあるんで、どうしても鈍いんですから反応が」


 ゴージョが、クチバシの中にその細い身体を滑らせると、その直後に河鬼の緑の目が光る。準備完了という訳だ。


「さあ、行くぞゴージョ!」


 あたいは猿王を立ち上がらせた。

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