第2話 盗賊団 其之弐
ブオォウッ!
風を唸らせて、あたいのゴーレム、猿王が跳ぶ。
地属性魔法の使い手のあたいに合わせて、この猿王は改造がなされている。逆さに背負った二本の魔玉の杖もそうだ。この背中の魔玉には重力操作の魔法が込められており、あたいの魔力に反応してその力を発揮する。流石に、このは重力操作で空を飛ぶのは難しいが、ジャンプ・落下の軌道を大きく変化させる事は十分にできる。
今の跳躍は、斜め上におよそ25メートルといったところだろう。猿王の身長は15メートルだから、その二倍近い高さといったところだ。
ゴオォォォッ!
続いてゴージョの河鬼が、背と足の裏に設置された魔玉から風を噴出して、宙に飛び上がる。
「のわーーっ! なにをするでござる、ゴージョ!」
風に巻き込まれたハーチョが、森を転がりながらわめく。
「あら、ハーチョったら、そんなとこいたの~~?」
ゴージョの奴は、わざとやったのだろう。ハーフの癖にこいつはエルフとしての気位が高く、なにかとドワーフのハーチョを見下し、突っかかるのだ。一味の仲間同士で喧嘩させとくのは頭(かしら)としていかんともしがたいが、あればかりは何度叱っても直せそうにない。
「バカやってないで、行くぞゴージョ!」
重力制御で、斜面の下のロックゴーレムの一体を落下地点と定めたあたいは、猿王の踵でその頭を狙う。ロックゴーレムはこちらに気づいたのか、直前に頭をこちらに僅かに傾け、額にはめ込まれた宝玉が日の光で一瞬だけ輝く。
バキンッ!
あたいが着地したのは、そのロックゴーレムの宝玉の上だった。なぜならこれこそが、自立思考型ゴーレムの最大の弱点なのだから。搭乗者のいないゴーレムは、額の宝玉を破壊すれば、その機能を完全に停止してしまうのだ。
あたいは、機能停止したゴーレムの頭を蹴って軽く跳ねると、馬車の横にフワリと着地した。猿王の自重を背中の魔玉の杖で抑えれば、こんな芸当だってできる。
「上だーー! まだ来るぞーーっ!」
御者が叫び、馬車から顔を出した中年の男が、今まさに高速落下してくるゴージョの河鬼を指でさす。黒く、丸っこい河鬼のボディは、まるで黒い砲弾のようだ。
(あいつが、こロックゴーレム達のマスターか!)
なかなか素早く指示を出すし、古いゴーレム使いとしては有能な人物なのかもしれないが、この状況では無駄な事。大きな危険のない町中の警備であれば未だロックゴーレムは現役だが、あたい等のような野党はおろか、亜人種まで搭乗型のアイアン級以上のゴーレムを乗り回すようになった昨今、旅の用心棒など務まる訳もない。
ドガァッ!
案の定、ロックゴーレムの鈍い反応では間に合わず、防御態勢を取る間もなくゴージョの河鬼の尻が、勢いよく額の宝玉にのしかかり、その圧力で容赦なく宝玉を潰す。これで二体のロックゴーレムの機能は停止し、稼働中は残り二体だ。
「あららららーー、とっとっとっとっ!」
ドスンッ!
機能停止したゴーレムの頭からひょいと飛び降りた河鬼が、着地をミスってよろめき、尻餅をつく。
ゴージョの乗る河鬼というゴーレムは、もともと水中用だ。地上で使うには少々バランスが悪く、重心がおぼつかないところがある。重い大型の盾を左腕に付けているのが、余計に重心を取るのを難しくしているのかもしれない。
ドスッ ガンッ ガキンッ!
目の前で尻餅をついた河鬼に、残るロックゴーレムの一体が蹴りを入れ、殴りかかった。
「いけーっ! 盗賊共を叩きのめせーーっ!」
無邪気に声援を送る御車の男は、まさに失笑ものだ。岩でコーティングされただけのロックゴーレムの拳より、魔鉄(魔術で鍛え上げた鉄)の装甲をまとうアイアン級ゴーレムの方が遥かに硬い。これで傷つく訳がないのだ。例え岩の拳が砕けるまで殴ったところで、軍事用に開発された装甲の厚い河鬼には、小さな凹み一つ付ける事は叶うまい。
「話にならないよ、まったく」
残る一体のロックゴーレムの拳がこちらに迫ってくるのを見て、思わず笑みがこぼれた。本当に自立思考型ゴーレムは、動きが鈍い。これでは猿王の腹に仕込んだ秘密兵器の魔玉はもちろん、腰に下げたゴーレム用巨大モーニングスターさえ使うまでもない。
パキャン
ハエが止まりそうな左拳を、ロックゴーレム体の外側に回り込みながらかわし、猿王の左腕の丸盾で、その額の宝玉を砕いた。機能停止したロックゴーレムがまた一体、背中から地面に吸い込まれるかのように傾き、横たわる。
「駄目だぁーーっ、全然、敵わねぇーーっ!」「逃げろーーっ!」
二台の馬車から蜘蛛の子を散らすかのように、乗員たちが森に向かって逃げていく。が、これを追う気にはなれなかった。みんなどことなく貧相な服だし、遠目では豪華に見えた馬車の飾りも、メッキの落ちかかった古ぼけたものだった。
そもそも、アイアンゴーレムの乗り手を複数人雇って警護させるのが普通なのに、ロックゴーレム使いを安く雇って済まそうという連中だったのだ。もはや金の臭いなど、どこにも漂っていない。
「あーーもう、なかなか外れないな~~。ちきしょう!」
隣を見ると、組み伏せたロックゴーレムの額から、ゴージョがその宝玉を外そうと悪戦苦闘しているとこだった。あんなもの、人工的に量産されてる石だというに、なんともセコイ奴だ。
(そういえば……)
マッドゴーレムがあと一体いたことを思い出し、周囲を見渡すと。丸っこい泥のゴーレムが何かを抱えて街道を逃げていくところだった。なるほど、どうやらあれは、逃走用だったというわけだ。
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