第4話 庶民とお嬢様とエセ関西と。

「今確かに受けると言いましたわね、一度受けるといった以上、逃げるのは許しませんわ!せいぜい天乃舞ファンクラブに所属する準備をしておくことですわ〜!」


そう言うと、二橋さんは教卓の前まで爆速で帰って行き、ちゃちゃっとクラスメイトを着席させて会議の後半を運営し始めた。


どうやら後半は係決めらしい。

わたしと二橋お嬢様のネームプレートは最初から「キャスト」の枠に貼ってあり、本当に逃がすつもりがないと言う圧をひしひしと感じる。


…なんか、冷静になってみるとやっちゃった感が半端じゃなくてしんどいかもしれない。


だって!わたしは琉華お嬢様みたいな金のサラサラした髪も、とんでもなく整った顔もスタイルもないのに!

メイド人気投票とかいう、「家族がどれだけ身内を連れて来られるか」と「容姿が整っているかどうか」によって一位が決定されるものの順位で勝負とか!

やっちゃったかもしれないとかじゃない、完全にやらかした…


ステイ、ステイ。一旦落ち着こう。これは「フリースタイルメイド喫茶」。キャストの好きなメイドの衣装をそれぞれ装って挑む場所。

何か圧倒的なデザインセンスがあれば勝てるかもしれない。


でも、それは相手も同じだし、何ならあのお嬢様だったらデザイナーとかも雇えそうだし。そう考えるとデザイン面でもわたし圧倒的に不利じゃない?


考えれば考えるほど沼かもしれない、そもそもだってよく考えれば私が争う理由になった天乃さんだって、わたしのことを昨日一日放課後デートしただけの相手くらいにしか思ってないかもしれないのに。


いや、違う違う。

天乃さんがわたしのことどうでもいいかもとか考えるだけ無駄なことだし、だとしたら心のうちに秘めてた事情とか話してくれなかったはずだし。


余計なことだって分かってはいるけど、

私が無所属だから天乃さんは近づいてくれたのに、勝負を受けたせいで天乃さんに失望されたら…とか、ネガティブなことを考えずにはいられない。

やばい、これは軽率に病む。



結局、私が思考の渦から抜け出したのは会議終了の号令を聞いてからだった。


あっ、そうだ。

天乃さんは…衣装係か。

どうやらうまいことキャスト係を回避したらしい。


さて、会議が終わったわけだけれども。

今日はこれから、文化祭運営係が企画会議の内容を担当の教師に報告し次第、各係や個人でクラス企画の準備をする時間になるとか。


キャスト係の子は主にネットで情報収集をしたり、衣装の方針が決まっている子は衣装係や会計係とのすり合わせを行う流れになっているらしい。


どの係も実店舗で買い物をする場合は外出許可を取れば17:00まで校舎外に出ることが可能で、購入したいものがあれば一旦自費で購入、校舎に戻ったあとに領収証を提示して、その分は学校が支払ってくれる…でも。


購入物が企画と関係しない場合と、係に割り振られた予算を超過した場合は経費で落ちないため、そこも会計係、ひいては教師とのすり合わせが必須だそうで。


意外としっかりしてるんだね。

そして、うちのクラスの割り振りはキャスト一人あたりの予算が7万円らしい。

たっかい。


どうやら衣装係の予算も兼ねてるから、2係分+主役の係ボーナスの予算でこうなるらしい。

にしてもたっかい。


まあ、そりゃ学校行事だからお金は経費で落として欲しいし、予算が少ないとどこかのお嬢様が自費で課金して自分だけ高い衣装使って無双とかありそうだし。

いや、そういうの関係なく予算がたくさん出てる現状ですら勝負にすらならなさそうなのは十分承知の上で。


…にしても、どうしよう。

わたしが、しかもフリースタイルとやらでメイドさんをやることになるなんて全く想定してなかったから、とりあえずは情報収集からかな。


報告に行った琉華お嬢様が戻ってきたら、とりあえずPC室に行こう。

それにしても、長い間座ったまんまだったから疲れちゃったなあ。


「んぅ…」


伸びをするとぱきぱきと腰が鳴るのが分かった。

琉華お嬢様、どのくらいで戻ってくるかな。すぐ戻ってくるとは言ってたけど、企画が企画だから説明に時間かかりそう。

でも、まだみんな静かに座って待ってるし、なんか机に影が落ちて来ていい感じに暗くなったし。

ちょっと寝ようかな…



「なあなあ、あたし、あんたの専属衣装係やりたいんやけど。ええかな?」

「へゃぁぁあ!?」


この空気の読めないビックボイスのエセ関西弁、知ってる。

えっと、

結田桃ゆいだもも。気安くももちゃんって呼んでくれてええで!」


「…あ、うん、そっか。えっと、なんで私の専属衣装係…?とやらになろうと思ったの?」

「よう聞いてくれたな!あんなあんな、あたしな、おもろいことが大ッ好きやん?」


「…そうなんだね?」

「やからあたしお嬢とあんたのお話聞いてて思たんよ、これは絶ッ対参加せなあかんやつや!って。」


「へ、へぇ、そうなんd」

「だってこれって『個人のエゴと組織の威信をかけた勝負』っちゅうやつやろ?あたしそんなんテレビか漫画の中でしか見たことあらへんねん!」


「……。」

「ああそうそう、あの天乃とかいう子も衣装係やったな、あの子に担当してもらいたいんやったらそれでもええからあたしもよしてほしい!別に専属の一人や二人いたってええやん?多分それでもあのお嬢の方が有利やし!」


「あんなあんな、あたし別にあの愛想笑いばっかりしてる女の味方したいってわけやないんやけどな、だってあの子いっつも自分がいっちゃんつまんないですって顔に書いてあんねん。ああ、そうそう、なんやったっけ、あれやん。…買い出し!」


「そうやん、実店舗行こうや。何も参考にならん本読んだり画面と睨み合ったりするより試着したほうがよっっっぽどイメージ、湧くと思うで!どうよ、このももちゃんの天才的アイデア!」


なんかちゃんとしたこと言ってる気もするけど、至近距離で喋られるたびに頭がビリビリして内容が入ってこない。

なんかもう、コミュニケーションを諦めて逃げたい。

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カラメルソースとロリポップ 緋之元夜空 @yozora_hinomoto

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