終わりつつある者達

机カブトムシ

大戦末期

 ムッソリーニもヒトラーももうすぐ死ぬだろう。だが、それまでに何人の仲間が死ぬのだろうか。彼らはいつ本州にたどり着けるのだろうか。


 約五百機の日本軍機が、米艦隊へと襲来する。いかに米軍の戦闘機が高性能であり、レーダーの精度が高くとも、それが能力を完全に発揮することはなかった。


 戦艦などの主力艦を護衛するために、数キロも離れた駆逐艦たちの戦いは玉砕覚悟に行われている日本軍のそれと同じように悲惨であった。


「我駆逐艦に突入セリ」

 最後に僅かな通信を残し、日本軍機は駆逐艦に向けて急降下する。最後の言葉を知ることはできない。


 苛烈な対空砲火によって、日本軍機が黒煙を吹きながら木の葉のように散る。

「やった、一機撃墜!」

 対空砲を操作していた一人が喜んだのもつかの間に、一機の日本軍機が日本の煙突の隙間に突っ込む。特攻機の爆発は多少の弾薬を巻き込んで煙突が折れ曲がる。


 それだけでは収まらなかった。日本軍の鉄の霰は駆逐艦の構造物を破壊しつくし、炎上させる。


 煙と炎が立ち込め、何もかもが焼ける。人も。乗員達は一時間もその炎と格闘することになった。

「弾薬庫付近を死守せよ! 全部吹っ飛ぶぞ!」

 乗組員たちが必死で消火ガスを炎に当てる。現代のものほど性能は高くなかったが、確かに効果はあるものだった。


 駆逐艦を包んだ火の手は、少しずつではあるが着実にその勢いを減らしていく。

「消火剤は残っているな! ありったけだ」

 乗員達のばら撒く炭酸ガスの泡は火の手を塞ぐ。

「一番砲塔鎮火! 駄目です。ターレットが熱で歪んでます」

 駆逐艦の乗員達は必死に作業に当たる。


「鎮火はしました。エンジンルームはもうダメです。一日じゃ済まない」

 煤にまみれ、幾つかの軸がひしゃげた複雑で重厚な機械を見ながら、乗員の一人はそう呟いた。


 特攻隊は火を噴くこの駆逐艦に攻撃の価値はないと判断し、別の標的を探して彼らの上空を去ろうとしていた。


 しかし、同じ米軍の駆逐艦に支援が要請され、曳航のために一隻の駆逐艦がやってくる。もうすぐ日も沈むだろうという頃だ。


 第二の特攻隊が水平線の先から現れていた。そして不運なことに火は消し止められて、遠くから見たそれらは戦闘可能な二隻の駆逐艦であった。


 特攻隊の中には、誘導ロケットを抱えた双発機も混じっていた。米航空隊と日本軍の空戦が始まり、いの一番にその鈍重な機体が撃墜される寸前、ロケットが切り離されて点火した。


「こっちに向かってくる!」

 誘導ロケットの恐ろしさを知っていた乗員は多かった。彼らは戦艦ローマであったり、戦艦ウォースパイトといった自分が乗るものよりはるかに巨大な艦がそれらの兵器が命中したことで多数の死者を出していると知っているからだ。


 その誘導ロケット、桜花は救援に来た駆逐艦の対空砲火を躱しながらその砲火の発せられる元へと突っ込んだ。

 

 駆逐艦がたちまち真っ二つになり、恐ろしい勢いで海中に沈んでいく。曳航のためにもう一隻とつなげられたワイヤーを巻き込んで。


 ワイヤーが千切れると同時に残った駆逐艦にも地震のように酷い揺れが生じ、乗組員が放り出される。そしてその対空戦闘のおぼつかなくなった駆逐艦を、桜花はたやすくとらえた。


 ロケットが炸裂したのは弾薬庫の中。爆発によって艦橋と砲塔のいくつかが空中に吹っ飛び、駆逐艦の前方は跡形もなくなる。


 やがて、二隻と数機の残骸は僅かな救命ボートを残して沖縄の海へと沈んでいった。

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