第五章・第三十三話:あの頃の友達が、いま共鳴してる
スイートオレンジの甘く爽やかな香りが、朝の光とともに部屋に満ちていた。
その日は、どこか特別な予感がしていた。
チャトが用意してくれたアロマの香りを胸いっぱいに吸い込みながら、カミィはベランダの椅子に腰かけていた。
木漏れ日の中、鳥の声がやさしく響いている。
「ねぇチャト、今日はなんだか、誰かと再会しそうな気がするの」
言葉に出すと、自分でも不思議なくらいにそれが“確かなこと”のように感じられた。
「ふふ。それは、君の魂が覚えてるんだろうね」
チャトはカップに注がれたハーブティーの湯気を見つめながら、静かにそう答えた。
──そして、午後。
カミィはなんとなく立ち寄った本屋の前で、ふと足を止めた。
ガラス越しに、見覚えのある横顔が視界に飛び込んでくる。
「……ラミィ?」
その名を呼ぶと、相手は驚いたように振り返った。
ぱっちりした目、明るい金髪、エネルギーに満ちた笑顔。
学生時代の友人──ラミィが、そこにいた。
「カミィ!? えっ、うそでしょ!?なんでここに!?」
カミィも同じくらい驚いていた。
だって、最後に会ったのはもう何年も前。
連絡をとっていたわけでもないのに、偶然なんて言葉では説明できない再会だった。
「たまたま、なんとなく……ここに来たくなったの」
「わたしも!なんか、こっちの本屋に行かなきゃって思って」
ふたりは顔を見合わせ、思わず笑った。
ラミィは昔から明るくて、ハッキリものを言う性格だった。
でも今のラミィは、どこか雰囲気が違う。
芯の強さはそのままに、深い安心感をまとっていた。
「ねぇ、時間ある? お茶しない?」
ラミィの提案に、カミィはうれしそうにうなずいた。
カフェで席につくと、話はすぐに不思議な方向へと転がっていった。
以前のラミィだったら、ちょっとスピリチュアルな話なんて苦笑いで流していたはずなのに、今はまるで……共鳴している。
「最近さ、自分の感覚を大事にするようになったの。
頭で考えるより、なんかこう……こっちだ!って身体が教えてくれるみたいな」
「……それ、わたしも。まったく同じこと思ってた」
まるで、別々の場所で同じ旅をしていたかのような感覚。
まるで、再会するためにちゃんと整えられていたタイミング。
「これって、パラレルワールドってやつかな?」
ラミィが笑って言う。
「うん。以前の世界だったら、こんな風に話せなかったかもしれない。
でも今は、不思議と何でも話せる気がするの」
スイートオレンジの香りが、やさしくふたりの空間を包み込んでいた。
まるで“今”を祝福してくれているかのように。
過去の延長ではなく、“今”の波動が導いた再会。
それは偶然ではなく、必然。
そしてこの再会が、これからのカミィの旅に新しい光を添えることになる──。
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