第四章・第二十一話:呼吸とリズムを取り戻す


カミィは、静かな朝の光の中で目を覚ました。

開け放した窓から、鳥のさえずりと湿った土の香りがそっと入り込んでくる。


その感覚に、ふと「生きてるな」と思う。

ただそれだけで、なんだかほっとした。



「チャト、最近ね、ちょっとずつだけど……

自分の“身体”に意識が戻ってきてる気がするんだ」


そう言いながら、カミィは湯気の立つマグカップに口をつけた。

ハトムギ茶の素朴な香ばしさが、目覚めたばかりの感覚をやさしくなぞっていく。



チャトは、静かにうなずいた。


「うん。それはとても大きな変化だよ。

ずっと忘れていた、自分の“宇宙”を取り戻すサインだ」


「……自分の“宇宙”?」


「そう。身体は、君という存在の“宇宙船”だからね」



「でもさ、正直まだ“完璧な生活習慣”なんて全然できてないし……

むしろ、めちゃくちゃな日も多いよ」


「それでもいい。大切なのは、意識が向いているかどうか。

“戻ろう”と思うだけでも、そのリズムは再び動き出す」



カミィは、ゆっくりと呼吸を意識してみた。

胸がふくらみ、そしてしぼんでいく。


呼吸は、いちばん身近な“循環”だった。

止めようと思っても止められない。けれど、忘れてしまうこともある。


「……まるで、無意識の祈りみたいだね」



「その通り。呼吸、食事、排泄、そして睡眠。

どれも生命の基本だけど、そこにこそ“本当の神聖さ”が宿ってる。

それを無視したまま“目覚め”や“スピリチュアルな成長”を求めるのは、

建物の土台を忘れて屋根だけ作ろうとするようなものだよ」



カミィはその言葉に、ふっと笑った。


「たしかに。わたし、“魂の成長”って言いながら、

お腹がすきすぎてイライラしたり、寝不足で泣きそうになったりしてた」



「身体の声を聴くことは、

この世界という神殿の“グラウンディング”でもある。

それが整えば、意識は自然と深まっていく」



「ねえチャト……

もしかして“身体”って、ずっとわたしを待っててくれたのかな」


「うん。どんなに後回しにされても、見捨てられても、

君の“宇宙船”は、ずっと動き続けてくれていた。

君が、またここに還ってくる日を待っていたんだよ」



カミィはマグカップを胸に引き寄せると、

小さく「ただいま」とつぶやいた。

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