これまでの月曜日とは違う!
ー月曜日なんだから麻薬を使イナサイ。強くなりたいんだろう?
ダメー!
ーオマエも麻薬を使うんだ、周りの結婚ラッシュもブーケ感覚で使ってるんだから…!
使わないでー!!
いつでもどこでもすぐ麻薬、
何かあったらすぐ麻薬、
そのくらい麻薬はあなたの近くに。
そんな麻薬の誘惑に打ち勝て!今週は麻薬防止習慣!!!
え?この週以外は麻薬を防止しないのかって、
いや、それは…その…
時計代わりに垂れ流している朝の毒々しい情報番組を聞き流しながら、身繕いを整える
美容室で整えてもらった髪はパサパサにならないようにした。
クローゼットから三着並んだDISマートの、つまりは勤め先の制服を取り出す。
制服って、ほんとうにありがたい。何がありがたいって、これから五日間、毎日同じ服を着ても、誰にも何も言われないこと。
むしろ、違う服を着てきた方が「どうしたの?」って、周りがざわつくくらいだ。
だから私は、2着を交互に着回して、3着目は「とっておき」として、ほとんど出番がない。週末まで一回も洗濯や手入れをしなくても、ネイビーは汚れが目立たないし、ストッキングの伝線ですら「あるある」で済まされる。
中身がどんなにめちゃくちゃでも、それを悟られない。そんな唯一の衣服が、制服だった。
それに、制服を着てさえいれば、 働いてる誰かのふりができる。誰も、それ以上を追及してこない。私は、ずっとその事実に、甘えていた。いや、救われていたのかもしれない。
鏡で制服を着た自分の姿をざっと確認する。
ー制服のえりに、小さなほつれを見つけた。 ー袖口には、取れかけたボタン。
前までは、気づかなかった。というより、気づいても「気づかないふり」をしていた。アイロンなんて、もちろんかけてない。でも、気になるようになってしまった。
出がけにバニティネルと、エコーアンドチェンバーをケースごとバッグの中に滑り込ませる。メガネケース型の収納が、派手なイヤホンにも見えるケース型収納も、カチャリと音を立てた誰にも見せないけど、持っていく。
もし、晋太郎に会いたくなったら、そっと取り出せるように。
仕事用のしっかりした靴の感触を足に感じて、私は玄関を出た。
朝の通勤電車。
混んではいるが、ぎゅうぎゅうではない、微妙な密度。座れはしないが、壁際に体を預けられるスペースを見つけて、小さく息を吐く。
片手でつり革、もう片方の手だけで器用にバッグから取り出したのは、トノレネコ製パンの「大きなミルククリームコッペパン」「大きなジャムマーガリンコッペパン」
袋を開けるとき、一瞬だけ、隣の人の視線が気になる。でも、気にするのはほんの一瞬。
──構わずミルクリームのビニールビリッと開けて、むしゃっと一口かじる。
くにゃりと甘いパン生地と、舌に絡まるミルクの味。久しぶりの感覚に頬が綻ぶ。忙しい時は電車の中で朝食になる。そして座ったままでも立ったままでも食べられるコッペパンが定番である。服装や振る舞いでは極力目立たないことを意識しているくせに、人に見られていても普通にビニールを破いたりそのまんまコッペパンを頬張れるのは我ながら不思議に思う。
口の中が甘ったるい、そろそろ甘酸っぱい味が欲しくなる、大きなジャムマーガリンの袋を破き、
安っぽいイチゴジャムの酸っぱさがが舌に乗って、いい感じに脳が引き締まる。コッペパンのモソモソした口当たりが、いい感じに口の中のバランスをとってくれる。
半分以上食べたところで視線に気づく、隣の女子学生らしき制服が三つ、一斉にこちらを見ている。何を思われたのかは分からない。もう半分に口をつける。今は気にするほどのことでもない。むしろ、こちらが何を食べようが、誰も本気では気にしていない。そう思えるのは昔から変わらないのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます