サンデーのサンデー

私の朝は早い、まずはバニティネルをかける、

そのまま洗顔


「おーい!んなもんかけてたら顔が洗えねーぞ」

やってしまった。


バニティネルを外してから身繕い


今日の朝は昨日までとは違う美容室の帰りに寄ったディスカウントスーパーで、特売コーナーを漁るようにして買った食材たちがある


まず、冷凍ご飯を解凍するためにレンジに入れてつまみをひねる


その間に特売コーナーで一際目を引いたマグロの切り落としのパックを開けた。少し乾きかけているが、それでもまだ美味しそうな赤色をしている。


醤油とごま油を適当にかけて、チューブのわさびもぶーっと。腕まくりをしてから素手でざっくり混ぜていると、後ろから晋太郎の声がした。


「お前それ、わさびの量おかしくね? 」

「目分量って言葉、知らない?」

「知ってるけど、お前の場合、その「目」が信用できないんだよな……」


言われた直後にツーンとくる匂い。混ぜた指先の爪がヒリヒリしている。


…やばいかもしれない。


台所に立ってから始めて手を洗ってヒリヒリを一掃すると、その足で冷蔵庫を開けて、昨日のキャベツ炒め(の残り)と冷凍枝豆を適当な皿に移して、解凍ご飯と入れ替わりにレンジへ。

卵は二つ割って、軽く溶いて、


「お前それ賞味期限が過ぎて3日目の卵だよな?食って大丈夫はんだろうな!?」

「加熱すれば平気でしょ」


温め終えた具材にかけてもう一度加熱。


「ほんとに加熱で全部リセットされると思ってるだろ」

「黙ってて。今たぶん、私の胃袋が戦ってる」

「まだ食ってもいないのに?」


できあがったチャーハンは、想像よりずっとそれっぽい見た目だった。

香りづけに、昨日勢いで買った本場風とか書いてある中華スパイスをふりかけて完成。レンジから取り出すと、湯気とともに、けっこう辛そうな香りが鼻を突いた。


マグロのヅケも用意して、テーブルに並べる。

ひとくち食べて──


「辛っ!!」

「やっぱな。言っただろ」

「ていうか、わさび……入れ過ぎたかも……」

「舌に爆弾落としてどうすんだよ」


あわててチャーハンをかきこむ。

「っ!?ぐほっ!げほっごほっ!!!」

ワサビの辛さで毛羽だった下に中華の刺激がバッチリと沁み、激しくむせる

辛味が少しやわらいで、ふっと落ち着く。


「お前がそのまま擬人化されたみてえな料理だな」


ダラダラと涙を流しながら、やっと水を一口。

なぜか、朝からちゃんと生きてる気がした。



食べ終わった食器を流しに運び、ようやくひと仕事を終え、そのまま椅子に座り直した。スマホを開いてSNSをぼんやり眺める。誰かがどこかに行って、何かを食べて、誰かと笑ってる。不快であった

気晴らしにテレビのスイッチをオンにした。


ー甘くて 青くて なによりカオス!連続テレビ小説。天野蒼空の…

 


「……おい、止まんな」

晋太郎の声。今度は少し低い。


「え?」

「洗い物は後でいいやってやつはな、だいたい“いつか”も来ないタイプだぞ」


「今ちょっと休んでるだけじゃん」


「じゃあ一生休んでろって話になるだろ。温暖化で本州に来たビッグゴキブリがカーテン裏から“おひさ〜”とか出てきても俺は止めねぇからな?」


「うっ……」


思い出す。去年の夏、深夜2時の台所での初・遭遇戦。声にならない声をあげて、スリッパはないので外履きでで30分格闘して、最終的に逃げられて。諦めて泣き寝入りしたら午前5時30分に右足の指先に明らかに何かに噛まれたような痛み!!部屋の中に噛む生き物なんて一種類しかいない!!


もう嫌だっ!!


「たかが洗い物にそこまで言わなくても……」


「たかが、のうちにやっとけよ。

何かをやり遂げた人間ってな、だいたい皿洗いとかもちゃんとしてる人間なんだよ」


「なんの名言……?」


「俺語録。あとでグッズ化する」


仕方なく立ち上がって、蛇口をひねる。

スポンジの泡が、さっきのごま油でぬるぬるしてなかなか切れない。

でも、洗っていくうちに、少しだけ気持ちが落ち着いてくる。音と泡に集中して、何も考えなくなる。


洗い終わって、布巾で手を拭いていると、晋太郎がぽつり。


「……お前さ、ちゃんと洗い物したな。えらいな」


「え、なに急に。説教してたやつが手のひら返すの早くない?」


「褒めないとやんないタイプだろ、お前。

それでいいんだよ。自分でやったこと、ちゃんと認めてやれよ。今日のお前、ちょっと良いぞ」


そう言われたら、少しだけ胸を張りたくなった。

言葉にすると照れるから、無言で背伸びして、ごまかす。


キッチンは静かで、シンクには泡ひとつ残っていない。洗い立ての食器が、光を反射してちょっとだけキレイに見えた。


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