LOST  RAILWAYS

電車の揺れが、睡眠不足の頭を逆に冴えさせる。つり革にぶら下がりながら、スマホを見るふりをして時間を潰す。画面は、もちろん見ていない。通知はオフだし、SNSはもう何年も前にアカウントを消した。「繋がる努力」って、なんでそんなにみんな無邪気なんだろう。


網棚の上には、四角いビジネスバッグが一つ。

吊り広告には、まばゆい笑顔のモデルと「未来を変える、自己投資。」の文字。

──そうか、私には「投資先」がないんだな。


何が悪い。投資を名乗って人から金を騙し取ったり騙し取られてまだわからないのか?投資というのは「これから価値が上がる見込みがある商品」に出資するのが基本中の基本である。いくら財を投じても全く上がらない、むしろ下がる可能性が高い商品に金をつぎ込むのは、もはや投機ですらなく、ただの金ドブだ。

 

本気で投資をするなら商品の分析、つまり自己投資なら「自己分析」が不可欠である。自己分析の結果、私にどんな投資をしたところで「結果が出る前に投げ出す」か「テストで100点をとるような娘に嫁の貰い手なんてないよ」と言われるのが関の山ため、得られるのは「いつもこうだ」という自己嫌悪、むしろ自己に投資をしたせいでかえって暴落する可能性が高い、ということが分かった。

この分析を見ても、まだ自己に金をかけるというのは……と、


そんなくだらない分析をしていたら、電車が減速を始めた。


ふと耳に入る急ぎ足の靴音。もしかすると今止まっているのは、降りるはずの駅かも?

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