憂鬱な朝 ミミックリィガール

スマホのアラームが鳴る。

指一本で止める。もう一回。止める。

三度目。やっと、指を滑らせた。


「……はぁ」


息じゃなくて、溜め息。

体の奥から、よどんだ空気が這い出る。

顔を洗う。歯も磨く。目も、化粧も、少しはする。いくらなんでも、会社に行くのにこんな状態はまずい制服を着れば首から下はどうにでもなる。あとは首から上に最低限のメイクさえすれば、社会人になりすますことができる。


──髪。

ボサボサ。

まとめるゴムが見つからないから、洗面台の下を漁って、使い古しのヘアピンで留める。

ー目元にはクマ。

チークでごまかす。

ーくすんだ唇には、

百均の色付きリップ。


ー仕上がりは

その辺の人間って感じ。


これで誰にも声をかけられずに済むなら、上出来。


「……よし」


言いながら、自分でも全然“よし”とは思ってない。でも、声に出すことで少しだけ、次の動作へと身体が動く。


カバンの中には、昨日の資料と、古びたモバイルバッテリー。


玄関を開ける。

湿気の多い夏の朝が、私の肌にまとわりつく。

ぐちゃっとした空気が、身体の輪郭を曖昧にしていくみたいで、なんだか落ち着く。


鍵をかける。

踵を返す。

今日も私は、私を演じに行く。

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