第6話 格差と空夜
俺の右腕には
「おい、あいつの右手、あれって
バロールも目を少し見開いた。
この場にいる全員が困惑していた。
何?何故?
「何?私のを真似したわけ?どういうからくりか知らないけど、気に入らないね!」
綾野は右手首の刃を俺に向けて振り下ろす。
俺は咄嗟に右手の“綾野の”刃でガードする。
左手は血の刃であるため少し感覚が違う。
綾野が指に刃を出し斬り裂こうとしてくる。
俺は咄嗟に後ろへステップを踏み、距離を離した。
俺は刃のしまい方が分からないためそのまま遠距離戦へ。
綾野は鎖を出す。
しかし先ほどまでの鎖とは違い、鎖に刃が無数に生えていた。
当たったらひとたまりもなさそうだ。
俺は血を圧縮させ飛ばす。
鎖の軌道が少しずれる。
綾野は鎖を巻き取りもう一度発射する。
俺は一気に距離を詰め右手の刃で綾野を斬りつける。
雑な動きではあったがその刃は綾野肩に傷を付けた。
「、、っぐ。」
綾野が怯む。
俺はその隙を逃さず左手の血の刃を綾野の腹部に突き刺す。
綾野は崩れ落ちた。
気絶したのだろうか。
「なんとか、、勝った。それにしても、、これは、、。」
右手の刃は消えていた。
俺の勝ちである。
最後は大将戦。
俺と入れ替わるようにバロールが広場に立つ。
綾野は
「よくもやってくれたね。」
八重蔵が低く呟いた声は、濁りと怒気を孕んでいた。広場を囲む静寂に包まれた商店たちが、夕暮れの斜陽に染まり、騒々しかった一帯は今や静寂の中心に沈み込んでいる。
「そっちが僕等を舐めすぎただけだよ。どうする?今なら棄権も認めてあげるけど。」
涼しげな目を細めながら、バロールは笑った。黒のジャケットの裾をゆらりと揺らし、無骨な回転式拳銃を片手にぶら下げたまま一歩前へ出る。その余裕は、慢心ではない。明確な「格」の違いから生まれたものだった。
「――ほざけ。」
八重蔵の声が低く唸り、次の瞬間、空気が重く濁る。
バシュッと肉の裂けるような音とともに、彼の身体から漆黒の装甲が噴き出した。皮膚の下から剥き出しになった金属片が、音を立てて鎧へと組み上がっていく。肩、胸、腕、脚、そして首筋まで、無骨ながらも洗練された鋼の鎧が一瞬で形成された。
鎧が完成するまで、バロールは一歩も動かなかった。
煙草でも咥えるような顔で、微笑のまま彼を眺めていた。
「、、準備は終わり?」
バロールの軽口に、八重蔵が無言で応じる。
ドッ――!
次の瞬間、石畳が砕け散る。八重蔵の踏み込みはもはや突進に等しく、超重量の質量が跳弾のように一直線に走る。それは下手をすれば地面ごと削り飛ばすほどの力だった。
だがバロールは、動かない。
いや――ほんの半歩、足をずらしただけ。
八重蔵の拳が空を切る。風圧でバロールのジャケットが跳ねるが、彼の表情は一切変わらない。
「ちゃんと狙いはつけなきゃ。」
その瞬間、銃口が八重蔵の肩口に向けられていた。
――パン。
乾いた銃声。魔力で出来た弾丸が、鎧の継ぎ目を正確に射抜いた。
バキィ、と硬質な音。八重蔵の左肩が軽く跳ねる。
「、、やるじゃねえか。」
「ううん、今のは試射。感触の確認だけ。」
バロールは、銃をくるくると指で回しながら言った。
八重蔵は眉を寄せると、右手の拳を変形させた。鋭く尖ったナックル状の武具へと姿を変え、再び踏み込む。今度はフェイントを交えた三連撃、速度も威力も段違い――
それを。
すべて、バロールは見切った。
前へ出ず、後ろにも下がらず、ほぼその場からわずかに軸をずらすだけで回避する。まるで八重蔵の動きが事前にわかっていたかのように。
八重蔵の拳が虚空を穿つたび、風が裂け、石畳が抉れる。だが、かすりもせずに交わし続けるバロール。八重蔵の動きに間髪入れず、狙いすましたように拳銃が火を噴いた。
一発、二発、三発。
それぞれが鎧の要所を正確に撃ち抜く。防御力に定評のある八重蔵の鎧でさえ、魔術で出来た特殊な弾には耐えきれず、肩、腰、腿に薄くひびが走る。
「クソッ、、!」
八重蔵が距離を取る。初めて、押されていることを認める動きだった。
「この程度かい?」
バロールが笑う。
まるで、“勝負”にすらなっていない。
周囲を取り巻いていたシールドと
「鎧を変形させる程度じゃ、僕には届かないよ。」
「――だったら。」
八重蔵が腕を開いた。背面の装甲が展開し、鎧の中から無数の刃が噴き出す。それらがワイヤーのように空中を奔り、広範囲を攻撃領域に変えていく。
「なら、、これでどうだッ!!」
鎧と一体化した無数の刃が四方八方からバロールを囲い込む。上から、下から、左右から、まさに逃げ場のない領域――
その中央で、バロールは微笑んだまま。
「大げさだね。」
銃声すら響かない。
バロールの手元が、ふわりと動いた瞬間、彼の周囲に
空気がねじれた。
次の瞬間、八重蔵の放った刃が、すべて“軌道をずらされて”逸れていた。
錯覚ではない。
バロール自身は動いてすらいないにも関わらず、すべての攻撃がバロールに触れず、逸れた。まるで“そこに何かがある”かのように。
「、、っ、これは、、。」
「時空属性魔術“
バロールは歩を進める。
一歩、また一歩と。
八重蔵の鎧が軋み、必死に再調整を図るが、その間にもバロールの距離は詰まる。
「いい鎧だけど、設計が古い。」
銃口が、八重蔵の膝へと向いた。
――パン。
衝撃。
膝の装甲が砕け、八重蔵が片膝をついた。
「く、そ、、がッ!」
「これで終わりだよ。これに懲りて薬に手を出すのなんかやめな。」
バロールはそう言ってから銃をくるりと回し、八重蔵へ銃口を向ける。
「これが“差”だよ。八重蔵君。君が弱いんじゃない。ただ、僕が強いんだ。」
静寂。
その瞬間、観客の誰もが悟った。
――勝負は、ついた。
バロールが引き金を引く。
八重蔵は地を転がり、避けてポケットをあさった。
「クソっ、、。なら、こいつで、、。」
八重蔵がポケットから取り出したのは、銀色に鈍く光る注射器だった。
「何を……!」
綾斗が思わず声を上げる。その中身が何かを察したのは、バロールも同じだった。
八重蔵は黙って注射器の針を自らの左腕へと突き立てた。
一瞬後――八重蔵の全身が震え、黒い波動のような何かが皮膚の下から噴き出す。
「ッ――うおおおおおおおおおッ!!」
怒号とともに、八重蔵の身体を黒く光沢のある装甲が覆っていった。
肩から腕、胴体、足先まで、まるで戦車の外殻のような重厚な鎧が瞬時に形成される。
先ほどまでの“硬化した皮膚”ではない。これは明らかに“外部装甲”――異質な鎧の進化形。八重蔵の最後の悪足掻きだった。
呼吸が荒くなる。彼の目が赤黒く濁り、言葉ではなく唸り声を漏らした。
その場に立つだけで、地面が重圧に軋む。
八重蔵が重々しい足音を立てながらバロールへ歩み寄る。
装甲の間から黒い蒸気のような何かが噴き出しており、常人が近づけば圧に潰されるだろう。
「――もう一度言うぞ、バロール。」
低く、濁った声で八重蔵が吠えた。
「次はてめぇが潰れる番だ。」
次の瞬間、地を割るほどの勢いで八重蔵が踏み込んだ。
拳を振るう。鎧に包まれたその拳は、人間のそれではない。鉄塊が唸りを上げて飛ぶ。
が――
バロールは、それを避けない。
鈍い金属音と、空気の揺れだけが残った。
「な、、っ」
八重蔵の拳は、確かにバロールの顔面を捉えていた。
だが、バロールは微動だにしない。
「、、それが切り札?」
バロールが口角を上げた。
「見た目は格好いいんだけどね。」
次の瞬間、バロールはそう言ってから銃をくるりと回し、今度は宙に向かって一発撃つ。
その弾が空中で爆ぜると、漆黒の魔術陣が上空に広がった。
「“
雲一つない青空に浮かぶ魔術陣から紫黒の液体のようなものが広がっていく。
それは雨ではない。煙でもない。触れれば、心が沈むような重みと冷たさを持った“闇の膜”だった。
鎧は既にヒビだらけ、全身に負傷が広がっていた。肩で息をしながら、右腕の力を込めるが、反応は鈍い。
地面を叩くようにして踏み込みをかける――が、その足は一歩も前に進まなかった。
それは空間を包む“秩序”だった。
バロールが呼び出したこの魔術は、ただの攻撃ではない。
紫黒の闇が八重蔵の足元に触れた瞬間、世界の彩度が奪われる。
次に、聴覚。遠くのざわめきが波のように歪み、音が消えた。
最後に、時間。腕を動かそうとしても、その動きが水の中を泳ぐように緩慢になる。
彼の視界の奥、闇の中に一人だけ、鮮明に立つ者がいた。
彼が、愛銃をそっと上げた。発砲音はない。
八重蔵の鎧の胸部に、ぽたりと赤い点が咲く。
踏み込もうとした足が止まる。視線を上げようとしても、天井のような闇が落ちてくる。
最後に見えたのは、バロールの目元の微笑だった。
膝から崩れ落ちる。闇の膜が、彼の全身を包み、深い夜へと沈めていった。
やがて霧が晴れ、魔術陣が消える。
広場には、ただ静かに倒れる八重蔵と、微塵の傷も負わぬまま佇むバロールの姿だけがあった。
それが、この勝負の結末だった。
圧倒的だった。
当たり前と言えば当たり前だ。
ただの不良チームのリーダーと
シールド
今回戦った
回復してから話を聞くこととなった。
俺たちは帰路についた。
今回参加しなかったメンバーは
「ただいま帰ったよー。」
バロールがドアを開けながら言った。
「おかえり〜。」
中には
「勝ったよ〜。」
バロールがそう言ったが二人は予想していたかのように無反応。
そしてそれぞれが定位置に座る。
「取り敢えず全勝。負け試合は無し。明日、八重蔵に話を聞きに行こう。」
バロールが話し始めた。
「綾斗君、ごめんね。君は仮雇用なのにこんなトラブルに巻き込んじゃって。」
「いえ。」
俺の性別が変わって数日、色々なことが起こりすぎた。
「さて、、明日、八重蔵に会いに行く前に一度整理しようか。」
バロールが指を組みながら言う。
彰仁が腕を組んだまま、それに頷いた。
「今回の団体戦はこちらの勝ち。詳しい事は八重蔵に聴くとして。あいつらの使ってた薬だが、彰仁がとある情報を入手してくれた。」
「はい、奴らの使ってた薬は以前アビリティのばら撒いていた薬の粗悪品で、即効性だが強化倍率も低く後遺症が残ることもあるそう、、そしてこれが一番重要。これを流してたのはアビリティじゃない。どうやらアビリティの分派が流していたようです。」
彰仁が説明を終えた。
「成る程、八重蔵ならその分派について知ってるかもしれませんんね。」
ユーゴが呟く。
「だろうね。だから明日、直接話を聞きに行く。八重蔵が素直に口を割るかは分からないけど、そこは僕の仕事さ。」
バロールが俺の方を向いた。
「仮雇用期間一日目からずっとやばかったと思うけど、明日の八重蔵のが終わったらそっからはゆる~くなるよ。仮雇用期間はあと三日あるんだ、ゆっくり考えて決めてみてよ。」
バロールは「あ、勿論本当に働くならお給料は出るから。」と付け足した。
時間は十七時、八月のため太陽はまだ沈んでいなかった。
その日は解散となった。
俺は帰路につく。
団体戦の最中、自分の中に生まれた奇妙な感覚――綾野真咲との戦いの中で、自分の能力が何かに反応して変化したこと。
俺は和室で本を読みながら考え事をしていた
俺の身体、、一体、どうなってるんだろうか。何故、綾野の能力が俺の体で発動したのか?あの刃はなんだったのか?分からないことだらけで頭がこんがらがる。
夜の静寂が、部屋に満ちていく。
仮雇用の四日目―
俺は元の体に戻れるのだろうか、、。そんな事を考えながら俺は床に就いた。
翌朝、とある事を思い出した。一大事である。
この一週間弱の波乱万丈なスケジュールのせいで完全に忘れていた。
明日、留学に行っていた妹が帰国する。
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