第8話 ドキドキ! 大人の魔王の夜

旅を続ける大介と玉藻、そして新たに加わった小さな仲間・ミィは、再び街へと足を運んだ。このところ、玉藻の大人姿への変身ゲージが貯まってきているのを感じていた。食事の際、何気なく手が触れたり、隣に座った時に肩が触れ合ったりするたびに、玉藻の身体がじんわりと熱を帯びる感覚が、玉藻自身を戸惑わせていた。ミィは、大介の隣で、きょろきょろと街の景色を興味深そうに見つめている。


「な、なんか、体が変や……熱いような、むずむずするような……」


玉藻は小さな声で呟いた。大介はそんな玉藻の変化に気づかず、宿の手配を進める。


宿屋のカウンターで、大介はため息をついた。


「すみません、一部屋しか空いてないですか?」


宿の主人はニヤリと笑った。


「へっへっへ、悪いねえ坊主。人気があるもんでね。ま、可愛い娘さんと一緒なら、一部屋でも十分だろう?」


大介は内心でツッコミを入れつつ、一部屋の鍵を受け取った。玉藻は顔を赤くし、宿の主人を睨みつける。彼女の耳の先端が、微かにぴくぴくと震えている。


部屋はやはり想像以上に狭く、ベッドが一つだけ置かれていた。狭い部屋のベッドは壁にくっつけられており、寝袋はそのすぐ下に敷かれていた。


「なんでまたベッド一つやねん!」


玉藻は不満げに言った。


「仕方ないだろ。泊まれるだけありがたいよ。ミィは俺と床で寝るから、玉藻はベッドでゆっくり休んでくれ」


大介はそう言って、床に持参したシートと寝袋を敷いた。ミィは嬉しそうに大介の敷物の隣に座った。玉藻はしぶしぶベッドに横になったが、いつも以上に落ち着かない様子だった。


疲れているはずなのに、なかなか寝付けない。大介は、この異世界での出来事を反芻していた。ブラック会社での疲弊、やる気のない女神、拍子抜けするほどあっさりテイムされたロリ魔王。そして、新たに加わった小さな命(ミィ)の寝息。どれもこれも、数日前までは想像もつかなかったことばかりだ。


夜が更け、街の喧騒も静まり返った頃、大介は微かな気配で目を覚ました。玉藻が寝返りを打った拍子に、大介の寝袋のすぐ隣に密着している。玉藻の柔らかな髪が、わずかに彼の頬を掠める。ひんやりとした夜の空気の中、彼女の体温がじんわりと伝わってくる。微かな甘い香りが、大介の鼻腔をくすぐり、彼の心臓は、まるで初めて恋を知った少年のように、トクン、と大きく跳ねた。彼は、玉藻を起こさないよう、ゆっくりと身をずらそうとした。その時、玉藻の寝息が、ふわりと大介の耳元をくすぐった。


「ふっ…」


玉藻の身体から、微かな声が漏れる。そして、大介の心臓が跳ねるたびに、玉藻の身体から発せられる魔力が、じわり、じわりと増していくのを感じた。変身ゲージが満タンに近づいている。


(な、なんか、体が、むずむずする……? まさか、この人間、ワシに……ときめいたんか?)


玉藻は寝ぼけ眼のまま、微かに身じろぎ、大介にさらに顔を埋めるようにした。その頬が、熱を持っているような気がした。


その時だった。


「じわっ…!」


玉藻は突如、まばゆい光に包まれた。大介は思わず目を細める。光が収まった時、そこにいたのは、先ほどの幼女ではない。銀色の髪を夜闇に溶かすように長く伸ばし、妖艶な瞳で大介を見つめる、大人の女性の姿だった。落ち着いてきたことで、口調も自然と変わっていった。


「え、な、なになにこれ!? どないなってんの!?」


玉藻自身も何が起きたか分からず、動揺を隠せない。


「よ、呼ばれて飛び出て……って、なんでアタシがこんなこと言うてんねん!?」


思わずツッコミを入れたものの、大人の玉藻はすぐに真剣な表情に戻る。


「私の力は、この姿の時にこそ真価を発揮する」


大人の玉藻はそう言って、周囲の木々に向けて指を軽く振った。すると、枯れかけていた木々から、みるみるうちに新緑が芽吹き、花々が咲き乱れる。その場が、一瞬で色鮮やかな楽園へと変貌した。気づけば、変身の魔力が宿の壁を透過し、外の樹々まで呼応していた。大介はその圧倒的な力に驚愕する。


(玉藻、すげえな。……って、え、どうしたら元に戻るんだ?)


大介は呆然と呟いた後、すぐに内心で冷静にツッコミを入れる。


「おお、すごいな玉藻。これで荷物運びも楽になるな!」


彼の言葉に、大人の玉藻はため息をついた。


「……はぁ、この人間、何も分かってへんな!」


大人の玉藻は、内心で呆れつつも、どこかもどかしさを感じていた。この姿であれば、国王への復讐も、新たな魔王城の建立も、より具体的に計画できるだろう。だが、同時に、大介の鈍感な対応に、やきもきする自分がいた。


(……ワシの力、こんなもんやったか? いや、まだ何か、抑えられているような……)


彼女はそう考えながら、再び森の奥へと視線を向けた。


夜が更け、街の喧騒も静まり返った頃、大介は微かな気配で目を覚ました。ミィはスヤスヤと寝ていた。何も気づいていないようだった。大介は、この異世界での出来事を反芻していた。ブラック会社での疲弊、やる気のない女神、拍子抜けするほどあっさりテイムされたロリ魔王。そして、新たに加わった小さな命(ミィ)の寝息。どれもこれも、数日前までは想像もつかなかったことばかりだ。


——魔王の力が、今、新たな形で目覚めようとしていた。


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【魔王のわるだくみノート】


フン! 人間め、まさかワシの真の姿がこんな風に戻ってくるとはな。この人間の鈍感さ、腹立つけど、まあ、ワシの力を引き出すきっかけになったのは認めやろか。おかげでこの姿やし、もっと色々わるだくみもできるな。アホな人間が、ワシの掌で踊っとるん、見てるの、なかなか面白いやんけ。


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次回予告


フンッ! 人間め、ワシの真の姿にビビってたな! 当然やろ! この玉藻様が、いつまでもロリの姿でいると思ったんか? まあ、あんたの料理が、ワシの力を引き出すきっかけになったのは認めてやる。感謝しいや! 次は、しょーもない村長と、ポン助のしょーもない料理バトルやで! ワシの人間、まさか負けへんやろうな!


次回 第9話 料理バトル?ポン助の奮闘

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