第7話 食材探しの珍道中

新たな仲間(ポン助とへっぽこ魔王軍)が加わり、大介たちの一団は、これまで以上に賑やかになった。一行は、次のキャンプ地を求めて、未だ見ぬ土地へと足を進める。道中、大介は目を輝かせていた。新たな土地には、まだ見ぬ食材が眠っている。彼の料理人としての探求心が、強く刺激されていた。


「よし、今日のキャンプ地はあそこだ!」


大介は指差した。そこは、小さな清流が流れ、木々が豊かに生い茂る場所だった。地面には様々な草花が咲き乱れ、風がそよぐたびに、甘い花の香りが運ばれてくる。


「人間、こんなところで本当に美味いもんがあるんか?」


玉藻は不審げに首を傾げた。ポン助は尻尾を振りながら、不安そうに辺りを見回す。へっぽこ魔王軍のゴブリンたちは、すでに疲れ果てて座り込んでいた。


「大丈夫だよ。俺はキャンプのプロだから。それに、この土地ならではの食材を見つけるのが、旅の醍醐味ってもんだ」


大介はそう言って、早速、食材探しを始めた。清流の近くで、キラキラと光る鱗を持つ魚を見つけると、大介の目が輝く。


「これは……! 川マスじゃないか! これなら塩焼きにすれば絶品だ!」


大介は素早く網を取り出し、川へと入っていく。その手つきは迷いなく、まるで獲物を狩る熟練の猟師のようだ。玉藻はそんな大介を、呆れたように見ていた。ポン助とへっぽこ魔王軍は、大介の異世界での生活能力の高さに驚きを隠せない。


「勇者様って、魚も捕まえられるんスね……」


「魔王様をテイムするだけあって、すごいっス……!」


へっぽこ魔王軍はひそひそと囁き合った。大介は、この旅で「土地の素材を活かす」料理へと意識が変化し始めている。以前は「便利食材だけの手抜き飯」に傾倒していた彼の料理は、今やその土地の恵みを最大限に引き出すものへと進化していた。


大介が捕まえた川マスを捌き、串に刺していく。焚き火の周りにセットし、じっくりと焼き始める。皮がパリッとはじけ、滴る脂が炭に落ちて小さく火花をあげた。香ばしさに混じる川魚特有の青い匂いが、腹の底をくすぐった。ポン助はたまらず、ヨダレを垂らしていた。へっぽこ魔王軍のゴブリンたちは、身を乗り出して魚を見つめている。


「よし、焼けたぞ!」


大介が声をかけると、全員が飛びつくように魚に手を伸ばした。特に玉藻は、熱いのも構わず、豪快に魚にかぶりついた。


「う、うまいやんけ……! この魚、しょーもない見た目のくせに、やるやんけ!」


玉藻は目を輝かせた。その勢いは、まるで初めて美味しいものを食べた子供のようだ。ポン助とへっぽこ魔王軍も、一心不乱に魚を頬張っていた。


食事が一段落した頃、大介は玉藻の髪を優しく撫でた。


「玉藻も、美味しそうに食べるね」


「ふ、フン! 別に、美味しいから食べてるんやないし! ただ、腹が減ってただけや!」


玉藻はそう言いながらも、どこか嬉しそうな顔をしている。その様子を見て、ポン助が興奮したように言った。


「勇者様と魔王様は、本当に仲良しっスね! これはきっと、勇者様が魔王様を守るために、一生懸命料理を作っているからっスよ! (なお当人たちは、これが“ただの旅”だと思っている模様である)」


ポン助は、そんなことを実況するように語り始めた。


その時、一人のロリの獣人少女・ミィが、怯えたように一行に近づいてきた。昼間、森の奥に逃げ延びていたが、焚き火の匂いにつられて来たようだった。彼女の目は、恐怖と空腹で潤んでいる。国王の悪政によって被災したのだろう。


大介はミィに気づき、優しく微笑んだ。


「大丈夫? お腹空いてるかい?」


そう言って、焼き立ての川マスを差し出した。ミィは警戒しつつも、ゆっくりと魚を受け取ると、小さな口でぱくりと食べた。その瞬間、彼女の瞳が大きく見開かれ、みるみるうちに笑顔が広がっていく。


ミィは、さりげなく大介の隣に座ろうとした。その時、玉藻の目が、ぎらりと光った。「ワシの隣はワシの専用席やっちゅうねん!」玉藻はミィと大介の間に入り込み、ミィの行く手を阻んだ。ミィは驚いて、玉藻を見上げた。「ここはワシの席や! あんたはそっち行けや!」玉藻は偉そうにミィを指差した。彼女の尻尾がブンブン怒っていた。火照った耳を隠すように帽子を深く被った。ミィはしょんぼりとして、ポン助の隣に座った。ポン助は「ま、魔王様も、子供には厳しいっスね……」と呟き、へっぽこ魔王軍は「ひぃっ!」と怯えた声を上げた。大介は玉藻の行動に戸惑いつつも、彼女の素直な感情が愛おしく感じ始めていた。


夜空には満点の星が輝き、焚き火の音がパチパチと響く。大介たちの一団は、互いの過去や故郷について語り合う。ポン助がしみじみと漏らす。


「この異世界、思ったより悪くないっスね……」


玉藻は、そんな彼を横目に見て、内心で満足そうに頷いた。この賑やかで温かい空間が、彼女の心を癒している。


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【魔王のわるだくみノート】


フン! 人間め、また余計な奴を拾ってきたな! ちっこい獣人とか、しょーもないにも程があるわ。ワシの隣はワシの専用席やっちゅうねん! まあ、この人間が、ワシ以外の奴にもモテるってのは、案外わるくないかもしれへんな。ワシの魅力が際立つし。ワシのわるだくみのためにも、この旅は順調に進めなアカンしな。


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次回予告


フン! またワシの邪魔が入ったな! あのちっこい獣人、人間様の隣に座ろうとするなんて、図々しいにも程があるわ! ワシの隣はワシの専用席やっちゅうねん! まあ、ワシの優しさで、しばらくは置いてやってもええけどな。次はいよいよ、宿屋やと? ワシの変身ゲージもそろそろ満タンやし、あの人間、ビビらすたるからな!


次回 第8話 ドキドキ! 大人の魔王の夜

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