異世界転生法

異世界の女神様






思えば、幸薄い人生だったなぁと思う。




氷河期という不幸度SSRの世代で育ってきた。頭っからつま先まで、碌な人生じゃなかったなぁと思う。金とも名声とも女とも無縁な人生だった。彼女いない歴=享年ってのは流石に笑った、人生ハードモードにも程がある。




就職から老後まで、生涯を通じて苛め抜かれた世代って訳だ。


けどまぁ、世の中捨てたものじゃない。





 昔ラノベや深夜アニメで楽しんだ「異世界転生」の世界、スローライフもハーレムも、英雄的な活躍も思いのままの生活。100年の理想の生活が最後に待っているとは思わなかった。「娯楽」だけは俺たちを見捨てなかった。


俺は得体のしれない神々しさが漂う謎の神殿にいた。柱には大聖堂を思わせる荘厳な装飾が施されており、天井には何らかの神話を描いたであろう絵画が一面に描かれている、そして目の前の台座に「彼女」はいた。


いわゆる「転生女神様」だ。自分がこれから向かう異世界について、どういう世界で、どういうスキルで、どういう暮らしがしたいか? を聞いてくる女神様だ。転生ものにはおなじみの彼女が大理石の台座に佇んでいた。





だが、ちょっと二つ程違和感がある。





まず一つ、俺の横に見慣れない「なにか」がふわふわと浮いている。


ほら、女児向け変身アニメでよく主人公の隣につき従ってる小動物がいるだろう、アレだ。猫とも犬とも違う謎の小動物、寸胴で、ぱっと見可愛らしく「女児向けアニメによくいそうな小動物」としか言いようのない何かだ。


まぁこれはきっとナビゲートキャラってやつだろう、大したことじゃない。





重要な違和感は二つ目の方だ。


目の前にいる「転生女神様」、妙に見覚えがあるのだ。





この神殿に俺が複数回来ることはあり得ない。異世界生活後は死ぬんだから当たり前だ。だから「既視感」を覚えることは無いはずだ。まぁこの手の光景は過去ラノベやアニメで散々見てきた。きっとそのせいだろう。





女神「ようこそ、この地を訪れしものよ……」





それにしてもよくできてる。興醒めなことを言うようだがコンピューターが描いた幻想とは思えない。「脳に電極」だけあって没入感すごいなぁ。俺は女神様が語るのをよそ目に女神様に近づき、身体のあちこちを眺める。


年の頃は十代後半~二十あたりであろうか、透き通るような肌で、髪の毛は濡羽色と言うのだろうか? 漆黒なのだが光線の具合によって虹色に反射するセミロングの奇麗な髪。そっと添えられた白い花の髪飾りが可憐だ。


彼女が纏っていたのは女神然とした……と言うより制服みたいなドレスで、華美を抑えながらも紺色の地に金糸……いや光る糸で細やかな刺繍がされた服だった。一部の制服マニアは涙を流して喜ぶのではないだろうか?





俺が近づいても反応しない、さすがNPCってやつだ。





ならと、俺は顔を女神の身体にずいーっと寄せてみる、ほのかに香水のいい匂いがする。現実なら変態扱いだがここなら大丈夫なはずだ。思わず好奇心にかられ乳を指でつついてみる、ああ、女の子ってやわらかいんだなぁ。





女神「あ、あの、やめて……ください……」


小動物「……キュ」





あ、反応した。てっきり俺を無視して喋り続けるかと思ってた。そして横に浮いてるマスコットキャラの咎めるような視線が突き刺さる。やめろよぅ、俺をそんな目でみるなよぅ。俺は小動物をがっしり掴んで必死に弁解する。


ごめんごめん。ほら、俺ってもう死ぬからさ。「死刑囚同等」の所業くらいまでなら許されると思ってたんだ。乳突っつくくらい、いいよね、どうせ死ぬんだから。ああ、この期に及んでまで弁明し続ける人生なのか、俺は。





小動物「キュゥ~」





それにしても次から次へと疑問が脳内に湧き出てくる。「」と言ってもいいだろう。思い返せば現世でここまで好奇心を持ったことってなかったと思う。確かに枯れた身体だが、無限の好奇心が沸き上がっている。


身体、と言えば俺はこの世界では10代後半の姿になっている。これは施設に入る前の事前確認で俺がそう望んだからであり、子供や乳飲み子状態からのスタートからも可能らしい。仮想世界ってこともあって融通が利く。





少しだけ後悔がよぎる。





実際にこの肉体だった頃、1990年代だった頃だろうか? 今抱いている好奇心でもっと活動的に動いていたら、俺ももう少しはマシな人生を送っていたのかもしれない。職も、結婚も、自ずと手にしていたのかもしれない。


まぁいい、女神様が目の前にいる時点で「P.A.R.A.D.I.S.E」によって脳は剥き出しになってて死ぬのは確定してるんだ。この世界、とことんまで調べてみようと思う。女神様も「乳揉まれたから地獄行き」とは言わんだろう。





俺はおもむろに女神様の方に向き直る。


俺「えーっと、女神様?」


女神「は、はいっ! えーっと……なんでしょう?」


慌てて答える女神、かわいい。


俺「大丈夫? ”女神業”に慣れてない感じだけど」


女神「い! いえ、ここで私と『なさる』のかと思ってしまいまして……」


俺「そういう人もいるの!?」


女神「ええ、なんかもう正気を失われて襲い掛かる方も多くて……」


女神「ここに来られた直後から、も多いんです」





俺は面食らう。まぁ「死」の選択をした後に改めて「死」が怖くなるの、分からなくはない。そのせいで錯乱して女神につらく当たったり欲望をぶつけてしまうんだろう。俺は「転生」がちょっと楽しみなので問題はないが。





俺「っていうか、あなた……ただの案内用のAIキャラ……ですよね」


女神「はい、ここで”転生”の案内をするためだけに作られたAIです」


女神「ですが、それでもやはり欲望を抑えられない様でして……」


女神が照れながら、転生先の世界のコース案内のカンペを取り出す。


女神「ですので、”私と共にここで恋愛生活するコース”も取り揃えました」





まぁ「受付嬢が地味に魅力的!」っていうのはハーレムものの定番パターンだ。異世界って何がでるか分からないし、それだったらここ神殿で死ぬまで受付嬢たる女神と100年間ねんごろに生きるって奴がいてもおかしくない。


しかしアレだね「コースを取り揃えました」……ってメタいにも程があるなぁ……まぁそもそもここはそういう施設だし。俺の生命を入場料にした娯楽施設なんだから、人生の最後を楽しむだけ楽しまなきゃソンだよね。





俺は「転生」を決めたいきさつをふと思い返してみた……。





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