第5話 若年性緑内障とハーブバター
ボブはすっかり良くなって、リハビリに街までおつかいを頼んでいるが、ある日悲痛な今にも泣きそうな顔をして帰ってきた。
「若年性緑内障で、あと半年で完全に失明するってお医者さんに言われた」
イケメンがもう世界の終わりのような悲しい顔をしている。何とかしてあげたい。そしてその病気の治療についてはひとつだけ心当たりがある。
「ボブ。絶対に治るとまでは言えないけど、ひとつ試してほしい食べ物があるの。」
聖女時代に……というのは喉元まで出かかったがボブには元聖女であることは隠してる。元聖女だなんてバレたらボブに一人の女性として見てもらえなくなってしまう。
「私が居なくても、一人で作れるように見て覚えてね。」
ボブを引っ張ってキッチンに入る。ミキサーにバターを放り込み、ハーブの花穂をほぐして混ぜ込む。
「このハーブバターは生では効能が低いけど、ケーキに混ぜ込んで200度まで加熱することで脱炭酸されて薬効成分が残るの」
ケーキ生地にハーブの花穂をほぐしたバターをたっぷり練り込み、オーブンで焼く。
「この薬効成分があなたに効くかどうかは賭けだけど……。ダメ元で1回試してみて。」
焼き上がったケーキを皿に取り、喫茶室に戻る。
「このケーキは30分以上かけて、ゆっくり、ゆっくり食べて。今からハーブティーも淹れるから」
マリーはキッチンに戻り、ポットにハーブを入れお湯を注いで喫茶室に待つボブのテーブルに置く。
「食べたあとはすぐに寝れるようにね。隠し味程度で良いハーブを治癒目的に特別にふんだんに使ってるから、効果も効果の反動もかなりなものよ。覚悟して。」
それではいただきます……とボブがケーキをガッツリ刺しているので注意する。
「これはお菓子じゃなくて目のくすりなの。そんな一気にかきこんだら死ぬよ?」
こりゃアカン。様子見のために、1回摂取量はこれくらいかと綿棒の先端くらいだけ取り分けて残りを没収する。
「薬は定められた分量、用法を守ってご利用ください。残りは冷蔵庫に片付けておきます。」
飴玉やキャラメル一粒より小さいチョコレートケーキを舌で転がして溶かすように食す。ゆっくり、ゆっくりとマリーが口を酸っぱくして注意するので、味を感じる余裕はなかった。
あまりにゆっくり摂取することを求められたので、ポットのハーブティーが出すぎて濃くなってる。
「このポット、濃いな……。」
ハーブティーとケーキを摂取し終えて、まだ何も起きてないが、マリーは早く屋根裏の布団に戻れとひっきりなしに言い、二人して屋根裏に登った直後、世界が回り始めた。
「すげぇよコレ……なんちゅうか……宇宙が見えます……。」
ボブは目を真っ赤にしてのたうち回るので、眠りの聖魔術で静かにしてもらった。
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