第4話 冒険者ボブ・C・ランドール

 男は骨折していて手足の自由が利かないが意識は明瞭だ。ほっておくわけにもいかないし、住所を聞いたら、さすがに遠すぎて担いでいくにはきついのでいったん、森の家の喫茶室の屋根裏に男を運び込む。


 男の名はボブ・ランドールと言い、ソロで採集クエストを受けていたC級冒険者だということだ。


 骨折したのを固定して、冷えないようにゴザ敷いて毛布掛けて安静にしているボブを見て、聖女として大量の治癒をしていたときはひたすら治癒の技を磨くことを要求されたものだが、治療行為は「やりました、ハイ明日から退院出来ます」ってモンじゃなく、その後の経過措置のほうが時間がかかる。むしろ「こっちが本体」なんじゃないかなと回想する。


 ともかくとっとと治してもらわないと。一人でも余裕のある暮らしとは言えないのに善意で人助けなんてしている余裕はない。かと言ってほっとけないからともかく足だけでも早く治して自力で帰ってほしい。


「……すいません。マリーさん。街に行かれましたらついでで構いませんので、こちらをギルドに、お渡し願えませんか?」


 手渡されたクエスト依頼書には、失敗にチェックを入れてある。依頼内容を確認したところ、薬草の葉や茎で、花穂がお目当てのマリーにとって融通しても余裕で余るモノだった。


「これ、依頼達成したらいくらの予定だったのかしら?」


 えっ?とボブは訝しがる。


「青銅貨420枚です。」


 流石にシケてる。やはりそんなものか。

この国の通貨制度では、軽金属貨5枚で黄銅貨、黄銅貨2枚で青銅貨、青銅貨5枚で小銀貨、小銀貨2枚で中銀貨、中銀貨5枚で大銀貨という体系で、だいたい大銀貨が500円ぐらいに相当する。


 しかし青銅化が人気で他の硬貨は補助として扱われている。本来ならば大銀貨8枚と中銀貨2枚で渡すのがコンパクトだが、500枚くらいならば5階建てにした硬貨を10x10にカジノのメダルのように積み上げて取引に普通に使われる。


「茎と葉は、融通していいわ。私は花穂があれば当面は良いから。取り分は半分でどう?」


 草の取引を打診してみる。どうせまた採ってくればいいし、腐らしたら捨てるには産業廃棄物屋にがっぽり金取られるしもったいないからちょうどいいわ。ホントに、この薬草には捨てる場所なんてどこにもないのよね。


「願ってもいないことです!本当にいいんですか!」


 ボブは感激して喜んでいる。とてもいい顔。イケメンは目に毒だわ。


 ギルドで茎と葉を買い取ってもらい、報酬を山分け。まだボブは歩けないから私が代わりに。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る