第21話 新しい職場の「勝負下着」

私は高橋由美。29歳。会社員。

今日、私は「プロの私」を演じる。

別に、誰かに認められたいわけちゃうけどな!


私の定位置は、前の職場のデスク。

毎日、淡々と業務をこなす日々だった。

だけど、心の中では、

ずっと憧れていた業界への転職を夢見ていた。

そして、ついにそのチャンスを掴んだんだ。

でも、新しい職場は、皆、バリバリのキャリアウーマンばかり。

自信を持って、堂々と振る舞いたいのに、

なんだか、自分だけが場違いな気がした。

特に、スーツを着た時の胸元の貧弱さが、

どうしても気になってしまう。

それが、今の私の大きな悩みだった。


だけど、今日だけは、違った。

転職先での初出勤を数日後に控え、

新しいスーツを準備していた時。

スマホの画面に、ある広告が目に留まった。

『スーツを美しく着こなす! プロの勝負下着』

そこに写っていたのは、

スーツのシルエットを格段に美しく見せるという、

補正力のあるブラと、胸元をシャープに見せるパッドのセット。

こんなの、私には縁遠いものだと思ってたのに。

なぜか、その下着が、きらきら光って見えた。

私を呼んでるみたいに。


これだ。

直感が、ビリビリと震えた。

これならきっと、私を「新しい私」に変えてくれる。


スマホの画面を凝視する私の指先が、

購入ボタンの上で、小刻みに震え、汗ばんだ。

心臓はドクドクと、けたたましい警鐘を鳴らす。

「こんなことして、本当に意味あんの?」

「仕事は実力やろ? 下着に頼るなんて情けないんちゃうか!」

「どうせ、誰も私のことなんて気にしてないやんか!」

自己否定の言葉が、嵐のように脳裏をよぎる。

指が止まる。

頭の中では「やめとけ」って言うてる。

でも、心の奥底で、

「私、プロとして、もっと自信を持ちたい!」

という、純粋で、強い衝動が湧き上がってきた。

それが、私の本音だった。

「がんばれ、私、負けへんで!」

小さく震える指先で、意を決して、

「ポチッ……」

購入ボタンを押した。

画面が切り替わり、「注文完了」の文字。

心臓が、大きく跳ねた。

顔が、耳まで熱くなる。

こんな本格的な勝負下着。

生まれて初めて、ポチってしまった。

届くまでの数日間は、ソワソワしっぱなし。

転職先での日々を想像しては、不安と期待が交錯する。

頭の中を、新しい下着が、

ひらひらと舞う。

まるで、私じゃない誰かが、

私の中で、そわそわしてるみたいだ。


そして、ついに、その日が来た。

ピンポーン。

インターホンが鳴る。

慌てて玄関に出ると、

宅配業者さんが笑顔で立っていた。

小さな段ボール箱を受け取る。

家族に見られないように、

自分の部屋に駆け込んだ。

まるで、悪いことでもしたみたいに。


丁寧に、セロハンテープを剥がす。

蓋を開ける。

ふわり、と。

新品の布の匂いがした。

箱の中から取り出したのは、

私がポチった、補正力のあるブラとパッド。

シンプルだけど、洗練されたデザイン。

指でそっと触れる。

しっかりとした生地の感触。

こんな下着で、私、本当に変われるんだろうか。


胸の奥が、熱い。

期待と、ほんの少しの不安。

混ざり合った、不思議な感情が、胸の奥で渦巻く。

部屋の鍵をカチリ。ガチャリ。

二重にロックする。

ゆっくりと、いつもの下着を外す。

そして、新しい勝負下着を身につける。

ひんやりとした感触が、肌に触れる。

ああ。

なんてことだ。

鏡に映ったのは、スーツのラインが格段に美しい自分!

胸元がシャープに整い、背筋が伸びる。

「これなら、堂々とできる…!」

思わず、そう呟いた。

感動する一方で、不自然さへの不安もよぎる。

「これ、無理してるってバレるかな?」

「なんか、気合い入りすぎって思われたらどうしよう…」

そう思ったら、急に顔が熱くなった。


初めての出勤日。

新しい職場の、自分のデスクに座る。

緊張で、体がガチガチだ。

周囲の視線が気になって仕方がない。

みんな、私をどう見ているんだろう。

不自然に見えてないか?

ドキドキが止まらない。

午前中の会議で、重要なプレゼンをすることになった。

資料を手に、立ち上がる。

声が震える。

でも、胸元のパッドが、私の背筋を伸ばし、

わずかながら、確かな自信を与えてくれる。

プロとしての私が、ここにいる。

そう、思えた。


プレゼン後、上司が私の元へやってきた。

「高橋さん、今日のプレゼン、素晴らしかったね!」

その言葉に、胸が熱くなった。

「べ、別に、そんなことないし!」

と、ツンとしながら答えたけれど、

心の中では、喜びが爆発していた。

見えない下着が、

プロとしての自信を、確かに後押ししてくれた。

小さな手応えを、そっと掴んだ。

この勝負下着が、私を新しい世界へ連れて行ってくれる。

そう、信じて、また明日も一歩を踏み出すんだ。

ポチって、本当によかった。


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SNS


由美の上司(男性)の社内SNS


今日の高橋さんのプレゼン、説得力あったな。新しい風を吹き込んでくれそうで、期待してる。


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【次回予告】


悩み相談です。子育てが一段落した私、田中里香。夫との関係も冷え込み、自分自身も女性としての魅力を失ったと感じています。ある日、友人に誘われて大人の遠足に参加することになったけど、久しぶりの外出で何を着ていけばいいか悩んでいます。特に、年齢と共に下垂した胸元が気になっていて…。オンラインで、年齢に合わせた自然なリフトアップ効果のあるパッド付きインナーを「ポチる」勇気を出してみたけど、こんなものに頼ってどうするんや? 今さら誰が見るねん! 私、もう一度輝く自分を見つけられるんでしょうか?


次回 第22話 大人の遠足と「魅せる」勇気

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