第7話 ウェディングドレスと「秘め事」〜母の遺した想い〜
私は田村沙織。
今日、私は「最高の私」と「母の想い」に出会う。
別に、誰も見てないし関係あらへんけどな。
もうすぐ、結婚する。
幸せなはずの結婚準備。
だけど、ウェディングドレスの試着が、
私にとって一番の悩みやった。
ブライダルサロンの大きな鏡。
試着室のまぶしい光。
「こんな胸で、ドレス着ても似合わへんし」
自分の貧弱な胸元が、
どうしても気になってしまう。
花嫁として「最高の自分」になりたい。
そう強く願うのに、自信が持てへん。
「別に、誰かのために着るわけちゃうし」
口では強がりながらも、
心の中は不安でいっぱいやった。
店員さんが、優しく声をかけてくれた。
「こちらのドレスには、
このようなパッドがおすすめです」
ドレスの下に着けるブラパッド。
その選択肢について、説明を受ける。
「はぁ? そんなん、どれでもええんちゃうの?」
ぶっきらぼうに答えつつも、
様々な種類のパッドを試してみた。
フワフワしたの、
もちもちしたの、
色んな形がある。
どれが自分に合うのか、
どれが私を一番綺麗に見せてくれるのか。
真剣に選び始めた。
そして何より、
自分自身が「これだ」と感じるパッドと出会う。
手に取った瞬間、
なぜか胸の奥がじんわり温かくなった。
でも、そのパッドの値段を見た瞬間。
「こんな高いもん、たかが胸のために?」
「どうせ見えないし、無駄遣いちゃうんか」
迷いが、一気に押し寄せる。
一瞬、手を離しそうになった。
それでも、一生に一度の結婚式。
後悔だけはしたくない。
「これがあったら、
もっと自信を持って笑顔になれるはず」
そんな期待が、迷いを打ち消した。
「がんばれ、私!」
心で叫び、意を決して購入を決める。
「な、なんや、勢いで買うてもうたやんか!」
レジを済ませて、
控え室に戻ってきた。
パッドを身につけ、
再度、運命のドレスを試着する。
ああ、なんてことだ。
鏡に映ったのは、いつもの私じゃない。
ブラの下で、胸元がふんわりと、
今まで見たこともないほど、美しい曲線を描いている。
「な、なんやこれ…!
べ、別に、感動してないし!」
照れながらも、顔は真っ赤になった。
涙が、じんわりと目に滲む。
その時、店員さんが、ふと、
私に優しい声で語りかけてきた。
「お客様、このパッド、
昔、お母様も同じものをお選びになりましたよ」
え? オカンが?
それは、かつて同じドレスを試着した母が、
大切にしていたものやった。
母の結婚式の写真には、
私の知らない、どこか自信なさげな母の姿があった。
でも、その母のドレスの下には、
私と同じパッドが秘かに使われていたことを知る。
「オカンも、こんなん使ってたんか…」
母もまた、私と同じ悩みを抱え、
このパッドに「見えない自信」を託していたのだと悟り、
胸の奥が、また、じんわりと温かくなった。
「別に、オカンと一緒やからって、
どうってことないけどな!」
ツンとしながらも、
誰にも見えない「秘め事」でありながら、
私の心に確かな輝きを与えた。
母との見えない絆を感じる。
ウェディングドレスを試着し、
鏡の中の「最高の私」に目を潤ませる田村沙織。
その胸元に秘められた母娘の絆を象徴するパッドの姿は、
世代を超えた「見えない自信」の継承を描き出す。
【SNS】
ウェディングドレス店の店長(ベテランの女性)の日記
今日の花嫁さん、最初は不安そうだったけど、あのパッドを選んだら、別人のように輝いたわ。何代にもわたって、女性の自信を支える「秘密のアイテム」って、本当に素敵ね。
---
【次回予告】
悩み相談です。俺、大学生なんですけど、最近、彼女の雰囲気が変わったことに気づいたんです。前よりもおしゃれに自信があるみたいで、笑顔も増えてて。もしかして、下着に何か秘密があるんちゃうか、って気になって……。彼女の「秘密」に触れてしまったら、俺たちの関係ってどうなるんでしょう? 俺自身も、実は人には言えないコンプレックスを抱えてて……。別に、興味ないっちゅーねん!
次回 第8話 彼の視線と「秘密」の胸、そして僕の「隠し事」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます