第2話「屋上のステージ」

校舎の屋上。吹き抜ける風が制服の裾をはためかせる。

 金網越しに街を見下ろす白井レンの横顔があった。金網越しに映る夕暮れは、

まるで都市を燃やしているようだった。

 レンの黒髪が風に揺れ、細い首筋がのぞく。無表情なのに、どこか壊れそうな

静けさを感じさせるその姿に、リンはなぜか目を離せなかった。

 レン「……来たか」

 リン「ちょっとだけよ。気分転換ってだけだから」

 レンはイヤホンの片方を外して、無言で差し出す。

 レン「聞いてみろよ。……オレが好きなやつ」

 リン「えっ、なに、突然……」

 戸惑いながらも、イヤホンを受け取って耳に当てる。流れてきたのは、どこか

懐かしいメロディ。昔のテレビショウのテーマソングらしい。ちょっと古臭くて、

でも温かく、優しい音だった。

 リン「……ステキなうたね。もっと聞かせてよ」

 自然にこぼれたその一言に、レンが小さく笑った。

 初めて見る、かすかに緩んだその表情に、リンの胸が軽く跳ねる。

 レン「……子どものころ、親がよく録画してたんだ。テレビつけたらこの曲が流れててさ。それだけは、なんか安心できた」

 リン「へぇ……意外。そういうの、ちゃんと覚えてるんだ」

 レン「うるさいやつも、人ごみも苦手だけど、音楽だけは逃げ場になった。……だから、これだけは捨てられない」

 リン(そんな風に思ってるなんて、知らなかった)

 音楽、風、レン。全部が重なって、胸の奥で何かが目覚める音がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る