加速装置

ミスターチェン(カクヨムの姿)

第1話「いらつき色の午後」

ねずみ色の雲が垂れ込める放課後。高層ビルが並ぶ街の谷間を、高校二年の早川リンは自転車を押して歩いていた。歩道には落ちたビラや空き缶が転がり、湿った空気が頬にまとわりつく。

 肩までの茶色いボブヘア。中性的な顔立ちに、長いまつ毛。男子の制服を着て

はいるけれど、よく「可愛い」と言われる。本人はそれをあまり気にしていない。

 リン(……また、あいつ、休みか)

 同じクラスで隣の席の、白井レン。

 無造作に伸びた黒髪、長い前髪の奥に隠れた切れ長の目。痩せ型で、いつも   フードをかぶって教室の片隅にいる。無口で、目が合ってもふいとそらす。

 リン(むかつく。なんなのよ、あの態度)

 制服のポケットに突っ込んだ手が、紙の感触を捉える。くしゃっとしたメモには、たった一言──『屋上に来い』

 放課後、レンが無言で机に置いていったやつだ。こちらを見ることもなく、

ただ背を向けて立ち去った。

 リン(意味わかんない。行くわけないじゃん)

 そう思っていたはずなのに、気づけば自転車の鍵を外していた。

 そして、ペダルを踏み込んでいた。線路沿いの道、濡れたアスファルトを

まっすぐに加速する。

 リン(なんで私、こんな……)

 風が頬を撫でる。顔が熱いのは、夕日か、それとも別の何かのせいか。

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