14 班分け
6月上旬
一難去ってまた一難。昔の人はよく言った者だと思いながら大西は解答用紙と睨めっこしていた。高体連が終わり、一通り大会のラッシュが終わったと思っていたところで今度は1週間と経たずに前期中間考査である。幸か不幸か大西は試合に出ることは無かったので、応援の時以外はテスト勉強に時間を当てられたのだが仮に自分が出場していたら間違いなくそんなことしている余裕は無い。文武両道とはいうが高体連本部はもう少し高校生たちの事情というものを分かってほしいものである。だがそんなこと嘆いても始まらないので高体連が終わってからの5日間、大西は必死になって勉強した。だが苦手なものは苦手だ。
「何が数学だよ。こんなの入試で使わないって確定してるのに何でやらせたがるんだよ教師共はよぉ」
大西は解答用紙に恨みを放ちながらも答えを書きなぐった。だがとても答えがあっているとは思えない。
「どうせこれも間違ってるんだろうな・・・ああやってらんねえ」
そうこうしながらも選択問題は何とか全て埋めた。下手な鉄砲も何とやらだ。少なくともいくらかは当たっているだろう。そう楽観的に構えながら残りの問題を解いていると終了のチャイムが鳴り響いた。
「はい止め。解答用紙を後ろから集めてください」
監督に来た教師がそう言うと後ろから解答用紙が送られてきた。大西はどこか燃え尽きた様子だ。
「何が数学だ。3年になったら絶対にやらねえ」
試験も全て終わり、教室内には賑やかな雰囲気が戻ってきた。これが居心地の良い空間というものだろうと大西は感じていた。
「帰ったら映画観よう。でも何にしようかな」
そんなことを考えていると担任の本田が教室に入ってきた。それと同時に教室内に若干の緊張感が走った。
「それじゃあまず試験お疲れさんでした。勝元、今回の日本史どうだった?」
「え・・・まあ自分的には手ごたえありかなと思います」
「そうか!じゃあ90点代期待しているぞ!とまあみんな中間考査なり高体連なりピリピリしてたけど、来月は何があるか、芦原、答えてみなさい」
「えっと、学校祭!」
「正解!というわけでここからは、学校祭に向けての班分けを行いたいと思います!」
本田はそう言うなり黒板に何か文字を書き始めた。そこには、「ステージ班、露店班、壁新聞班、装飾班」と書かれていた。
「今年はこの4班に分かれて活動してもらいます。ああそれとステージ班と装飾班は兼任もできるから何か興味あるとこあったらどこでも参加していいぞ!」
本田の言葉に教室は湧きたった。それと同時に大西の心もどこか高ぶっているように思えた。
「そうか・・・ここで早瀬と同じ班になればいいんだ」
そう考えていると早速本田が班分けを始めた。
「よっし、それじゃあステージ班行きたい人!」
最初は兼任もできるステージ班だった。大西本人も少しは興味あったが昨年参加した際に自分の書いた台本を没にされた為今回は二の足を踏んだ。そんな中彼はふと向かって左前に座っている早瀬の方を見た。彼女は手を挙げていない。
「なら無しだな」
続いて露店班の番になった。こちらも昨年少しだけ参加したが案の定接客が大変だったのでもう二度とやらないと心に誓っていた。無論早瀬が参加してもだ。
「誰がやるかよ」
その次は装飾班、正面玄関や廊下に装飾を施す担当だ。大西も少し興味があったがいまいち乗り切れなかった。それと同時に早瀬の方に目をやるとやはりというべきか手を挙げていなかった。
「となると・・・」
最後は壁新聞班だった。昨年上杉が参加していたようだが取材なりアンケート集めなりで色々と大変だったと聞く。だがメンバーに彼女がいればそんなことあまり気にならない。
「どう出るかな」
早瀬は勢いよく手を挙げた。どうやらこの班に乗り気なのだろう。その姿を見て大西も続けて手を挙げた。
「早瀬と大西、他は・・・芦原、村上か。あと二人誰かいない?」
本田の呼びかけに応じるように仲の良さげな女子二人が班に参加した。
「よし!それじゃあ班分けも終わったことだし、これから班ごとに集まって作戦会議と行こうか。それじゃあ集まって」
集まれとは言ってもどこにどう集まれというのか、などと考えていると村上が大西を連れて窓際の方へ案内してくれた。
「ほらこっち」
「ああ、ごめん」
メンツは村上と早瀬、この二人は話したことはある。芦原敏也はサッカー部所属の男だ。見るからに陽キャといった感じの雰囲気を出している。他の女子は二人ともバドミントン部で三原ともりと鎌田真由だ。大西はこの3人とはあまり話したことが無い。鎌田は1年の頃同じクラスであったがつっけんどんな雰囲気だったことから少し話しかけづらかった。大西はこのメンツで1カ月間やっていけるのか不安になってきた。だが早瀬と近づけるのであればそのような心配は正直どうでも良い話だ。
「じゃあ皆さん、これから1か月間よろしくお願いします!」
村上が音頭をとるように挨拶をした。だがどうも雰囲気が明るくならない。鎌田も昨年と変わらずどこか不機嫌そうな態度だ。
「じゃ、じゃあ、先にリーダーと副リーダー決めちゃおうか。誰かやりたい人!」
ここまでイニシアチブをとっておいて自分はやらないのかと大西は思った。おそらく他のメンバーもそう思っているだろう。そんなこともあってか誰一人手を挙げようとする者はいなかった。このままではらちが明かないと思い、大西は思い切って手を挙げた。するとほぼ同じタイミングで早瀬が手を挙げた。
「あ、それじゃあどっちが副になるか話し合ってもらえる?」
「え?あ、ああ」
大西は久しぶりに彼女と向き合った。
「どうする?大西君先に手挙げてたけど」
「あ、ああ・・・それじゃあ、俺がリーダーやろうかな」
「じゃあ私副リーダーね」
思いの外あっさりと役職は決まった。それと同時に大西はどこか高揚感を覚えていた。早瀬と同じ班に入れただけでも運が良いのにリーダーと副リーダー同士となればそれだけコミュニケーションを取る機会は増えるということだ。大西はようやっと今までの不運から報われたような気がした。
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