覚 -SATORI-
@AG_Spirit
覚 -SATORI-
ホームレスの男、ボロを纏い繁華街の道端に住む。
呆然とした記憶とうつろな目、すぐ目の前に食べ残したハンバーガーが落ちている。
腹の減っている男は、手をゆっくり伸ばしハンバーガーを取ろうとした瞬間、綺麗な赤いハイヒールに、ハンバーガーもろとも手を踏みつけられる。
「あらヤダ、ごめんなさい!」と女は謝罪。
その直後に、"最悪!この臭いウジ虫がっ!"と女の心の声が聞こえる。
男はガッと目を見開き女を見上げる。
「ごめんなさねぇ、オホホホ」と女は小走りにその場を去る。
’オレは、いつの間にか声を失った代わりに、人間の心の声が聞こえるようになった。。。’
「おじちゃん、はいコレあげる!お腹へってるんでしょ?」小学生の男の子が元気に透明袋に入ったコッペパンを差し出す。
少し下を向く男の子。”のどが痛くて給食残しちゃった。。。ボク食べられないからおじちゃんにあげるんだ”と心の声。
オレは口を動かすが、声にならない。
男の子はまた元気な顔になって「おじちゃん、またね!!バイバイ」と走り去る。
近くに立ち止まり携帯で電話しているサラリーマン。「もしもし、あ!部長!はい、はい、申し訳ありません!直ぐに伺います!はい。」電話しながら何度もペコペコと頭を下げていた。電話を切った直後”あのくそブタ部長が!てめ〜のミスを部下に尻拭いさせるんじゃねぇっての!自分で行け!ざけんなクソ野郎!”心の声を残し即側と歩き出す。
次の日。
「おじちゃん!今日はカレーパンだよ!美味しいよ。ボクお腹いっぱいだから、あげる!」
昨日の男の子、空元気でカレーパンを差し出す。”今日ものどが痛くて残しちゃった。ボクも大好きだから、おじちゃんもきっと喜んでくれるかな?”
オレはまた、言葉をかけてあげたくて口を動かすが、声が出ない。
「また明日も来るね!バイバイ!」元気に手を振り走っていく男の子を、一瞬ためらったが追いかけた。
男の子が家に入ろうとする頃、オレは追いついた。玄関から母親らしき女性が男の子を迎え入れていた。
オレはとっさに、2人に近づき、声が出ないながらも必死で、男の子がのどが痛い事をジェスチャーした。
「なんなんですか!あなた!ウチの子が何か?警察呼びますよ!」勢いよくドアを閉められた。
次の日も次の日も男の子は現れなかった。
カラン!
目の前に置いておく缶詰のカンに小銭が投げ入れられる。「がんばってくださいね」と作り笑顔で口から発せられる。その後いつものように”みじめだな、物乞いが!”人間の心の声がまた投げ捨てられる。眺める景色は、人間の建前と心の声が渦巻いて目の前が幾重にも残像に映りブラックアウトしていく。。。
次の日オレは、投げ無の小銭でカレーパンを買った。そして、あの男の子の家へ向かう。
仰々しい喪服の人間達が、男の子の家の前に群がっていた。そして、聞こえたくない声が聞こえて来る。
”食道ガンって、親の責任だな”
”仕事が忙しいのに、はぁ〜迷惑だ”
”バカ親の犠牲に、こんなちっちゃな子供が、ホントにバカだ”
”かわいそうに、まだ7歳だって。”
”この金欠の時に!はぁタイミングわりぃな!あぁ面倒だ!”
”カズちゃん、ごめんね、ごめんね。”
”気付いてあげれなくて、ごめんね、ごめんね”
”カズちゃん、カズちゃん。。。”
オレはカレーパンを握り締め、その場に崩れ落ちた。大粒の涙がボタボタとカレーパンの袋に何度も何度も落ちた。
オレはまたいつものココで呆然としている。
”おじちゃん!”男の子はパンを差し出しにっこり笑い薄くなって消えた。
[血の通う人間よ!心を腐らせるな!]
覚 -SATORI- @AG_Spirit
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